医学生にとっての「いわき市」とは


医師不足が叫ばれるいわき市。医師を増やすにはどうしたらいいか。色々なところで手探りが始まっているのですが、さて肝心の現役医師や、医師のタマゴたちは、いわき市をどんな風に見ているのか。まったく眼中にないのか。それとももしかしたら移住選択肢のなかに入るのか。そのホンネを聞いてみなければ、どんな受け入れ体制を作ったら良いかも分からない。

じゃあ、東京で最先端の医学を学んでる学生をいわきに呼んで、いわきのありのままを見てもらい、ぶっちゃけいわきどうよって話をしたらよいのではないか! 医師を目指す医学生たちの率直な意見を生かして、「医師が思わず移住したくなるいわき」を、(いや、それはハードルが高いから)「移住先の候補として考えてみてもいいいわき」を作るには、どうしたらいいんだ、教えてくれよできるだけそうしてみっからさ、という話をしてみたらいいんじゃないか!

はい、というわけで来て頂きました。山本雄士ゼミの皆さんです!

今回は山本雄士ゼミの皆さんに加え、いわき市の現役医師や医療関係者もゼミ生に加わりました。

山本雄士ゼミは、大学でも病院でも学べない医療の本質を学ぶゼミ。国内外で目覚ましいご活躍をされている医師で株式会社ミナケア代表取締役の山本雄士先生が主宰し、国内の大学で医学を学ぶ学生たちや、現役の医師たち、医療関係者が参加しています。月1ほどのペースで開催されていて、ハーバードビジネススクールで実際に使われているケースを用いたケーススタディを行っているそうです。これまでに受講したゼミ生は3000人以上とのこと。

な、なんだかスゴいゼミなんだな。

素晴らしい講義を届けてくれた山本先生。医学に関わらない人でも必聴の価値あり。

こちらが山本雄士先生。1999年に東京大学医学部を卒業後、東大付属病院や都立病院などで循環器内科、救急医療などに従事。2007年にはハーバードビジネススクールを終了。その後、株式会社ミナケア代表取締役や、ソニーコンピューターサイエンス研究所リサーチャー、慶應大学クリニカルリサーチセンターの客員准教授などを兼任しながら、教育活動として、このゼミを主宰されています。

な、なんだかとても優秀な人たちがいわきに来ちゃったんだな。

—医学生たちの見たいわきとは

今回やってきたのは、医学部生や研修医など20人。1泊2日の日程で、いわき市各地の視察とグループワークに臨みます。初日の9月23日は、いわきFCのクラブハウスや磐城共立病院、津波被災地の薄磯・豊間地区などを見学。さらに2日目の9月24日は、いわき医師会館で山本先生の講義とグループワーク。ゼミ生にとっても、いわき市の医療関係者にとっても、実に濃密な時間となったようです。

ここでは2日目の様子を紹介していきます。

いわきの現役医師からも鋭い意見が飛び交った山本先生とのディスカッション。

まずは山本先生の講義。そもそも医療に求められているものとは何なのかという根源的な問いから、組織や経営などのマネジメント論に話が膨らんでいきます。山本先生は「医師が医療以外の雑事に忙殺されていたのでは、医師は本来の能力も発揮できないし病院にも利益をもたらせない」と、それぞれの専門家がそれぞれの専門性を発揮できる環境づくりについて力説されていました。医師が働ける環境がなければ、確かに「地域包括ケア」も絵に描いた餅です。

また、現在の日本では、医療行為とは「何らかの症状が出て診断するところから入院など継続して治療をするところまで」だと考え過ぎていて、「予防」のフェイズや終末医療を担おうとしない医師も多いと指摘。日本における「医療」の概念、構造などにもメスを入れるような言葉もありました。とにかくお話が明晰で、医学以外の分野にも当てはまるお話ばかりで、参加者が真剣な表情でメモをとりながら講義から何かを吸収しようとしている姿がとても印象的でした。

初めていわきにやってきた医学生たちと、いわきの医療関係者が同じ目線で課題を語り合いました。

山本先生の講義を聴いたのはもちろん「ゼミ生」なのですが、ゼミ生といっても大学生ってわけではなく、今回のゼミ生は、いわき市の現役医師や医療関係者も含まれます。現役バリバリの先生たちが、若い才能たちと「同じテーマ」「同じゼミ生という立場」で講義を受け、ディスカッションする。これってすごいことです。いわきの先生たちも大いに刺激を受けた様子でした。

午後はグループディスカッション。いわきの医師不足などもふまえ、いわきの地域医療がどうあるべきかなど、それぞれのテーブルで激しい意見交換となりました。学生たちは外の目線で、いわきの現役の医師たちは中の目線で、お互いに異なる目線でいわきの地域医療を考えます。アイデアや経験が火花を散らすような、とてもイノベーティブでディスカッションになりました。

―今回いわきに来たゼミ生たちの意識

グループディスカッションでは、ゼミ生がいわきに来る前に取られた独自アンケートの結果も発表されました。とても印象的だったので少しかいつまんで紹介します。

Q いわき市で医師として働きたいと思いますか?
A 強く思う:0% やや思う:21% あまり思わない&まったく思わない:79%!!

Q 上の質問で「やや思う」を選んだ人たちの理由は?
A 中核都市の医療に可能性を感じる
・ 地域の方々と連携して働けるのは魅力(いわきである必要はないけど)

Q 上の質問で「思わない」を選んだ79%の理由は?
A そもそもいわきを、いわきの病院を知らない
・ 色々なデメリットを補うメリットがない
・ 行きたいと思えるような魅力(医療ブランドや有名病院)がない

Q あなたが医師として働きたいのはどのような地域?
A 人が集まり、生産年齢の人口が保たれている
・ 色々な機会があり、情報アクセスがよい
・ インフラや子育て感興が整っている
・ 医療リテラシーが高い病院がある
・ 閉鎖的でない地域

このほか、学生たちのいわきに対するイメージは「回すだけで忙しそう」「都心に比べると医療レベルは劣る」「ブランド力のある病院がない」「人や情報の集まる場所もない」など素直な指摘がありました。ほかにも、ワークライフバランス、情報発信、場づくりなど、若い世代の医学生が地域に求めるキーワードがいくつも飛び出しました。

学生たちが「ワカモノ」「ヨソモノ」の目線で忌憚のない意見を出してくれました。

学生たちの鋭い指摘には、思わず「ぐぬぬ」となりますが、こうして外部の意見を聞くことで地域の課題を客観視するというプロセスこそ大事です。ぐぬぬとなるのは図星だからでもあります。この気づきが課題解決のための入り口です。今回は、課題をあぶり出すだけでなく、それを改善するにはどうすればいいのかについても議論を深めて頂いたので、とても参考になりました。

また、課題だけでなく「磨けば光りそうな原石」も提案してもらいました。学生たちからは、いわきFCのスポーツドクターを例に出した「スポーツドクターを育成する町づくり」や、在宅医療や既存の「つどいの場」を活用したプログラムの充実化など具体的なアイデアもかなり出されました。

学生の1人は、先進的な病院がなくても、「課題に立ち向かう市民との協働そのものをプログラムとして医学生たちに提供することができれば、それはいわきでしか体験できない学びになるのではないか」と指摘してくれました。課題の多いいわきの医療ですが、確かに、「課題に市民とともに立ち向かう」ことができれば、それは国内で「先進事業」として認知されるかもしれません。

いわきの医療や地域課題を積極的にディスカッション。会場の熱気がすごかったです。

皆さん熱心にメモを取りながらのディスカッション。必ずや、いわきの医療を改善するための力になるはずです。

本音と本気のぶつかり合い。いわきの医師たち、医療関係者たちからも「素晴らしい会だった」という言葉が出ていました。

いわば課題を逆手にとったプロモーション作戦といえるかもしれませんが、市民も、医療関係者も福祉関係者も県外の医学生も、役割を意識しながら「ごちゃまぜ」になって問題に取り組むことができれば、それは結果的に様々な人によりよいサービスを提供することになるし、全国でも珍しい「地域づくり」のモデルケースになるかもしれません。

いごくでも紹介してきた「つどいの場」は、その意味では今後も重要度が高まること間違いなし。つどいの場を、いかに「地域の方たちの健康を支える場」から「地域の課題を解決するためのプラットフォーム」にアップデートするか。山本先生やゼミ生から難しい「宿題」を課せられました。これから私たちになりに考えていきたいと思います。

関係者の皆さん、ありがとうございました!


公開日:2017年10月02日