つどいの場という名の「美食の場」


ミシュランの星がつくわけでも、地元のグルメ雑誌に紹介されるわけでもない。けれど、確実にうまいもんが「つどいの場」にはある。そこに暮らして60年、70年という「暮らしのプロ」が作る料理は、商売で作られるそれとは別次元。どちらがおいしいって話じゃないんです。おいしさのジャンルが違う、というような感じなんだな。例えばカレーライス、例えばおひたし、それに味噌汁。

派手さはない。ばあちゃんちの戸棚やガスレンジにそこはかとなく置かれ、なんともいえない芳香を放ち、なぜだか強烈に滋味深い。毎日食ってもなぜか飽きなくて、意識してよく味わってみると確かにうまい。それなのに、もはや水や空気と同じレベルで日常のなかに存在している。特別じゃない。でも考え方によっちゃ特別? そんな料理。

つどいの場に集まる人のなかには、「裁縫のうまい人」や「おしゃべりの達人」や「超絶元気な人」や「いつも冗談ばっかり言ってる人」や、それぞれのスペシャリストがいる。もちろん「料理のうまい人」もいる。生活のプロが「あの人ぁ、ああ見えて料理うまいんだがんねー」と尊敬の眼差しを集めるすごい母ちゃんがいたりして、運が良ければその料理が食えたりするのだ。じゅるり。

地元の野菜だがら、甘みも渋みも爽やかで食感がちがんだ。塩なんて適当でいいんだ、野菜がうめんだがら。

ゲラゲラ笑いながら作ってでも、ぜんぶ「手」が覚えでんのな。生活のプロはすげえ。

見でみろ母ちゃんたちの「頂きます」完璧だがんな。こういう感謝の気持ぢ、忘れだらダメだど。

おひたしも、漬物も、味噌汁も、カレーも、野菜がごそっと入ってる。小川には小川の、田人には田人の、遠野には遠野の、好間には好間のが。白菜にキャベツ、キュウリ、ニンジン、じゃがいも、ほうれん草、小松菜、からし菜。生活に必要な野菜は、みんなそこで作ってる。しかも作ってるのが、地元で野菜を作るのが一番うまいお父ちゃんのお裾分け。

で、それを地元で料理を作るのが一番うまい母ちゃんが調理して、地元で一番おしゃべりな母ちゃんのおしゃべりを聞きながら食う。最高かよ。なんですか、「つどいの場」って、「高齢者に食事を振る舞う会」じゃなくて、「地元で一番うまいもんを食う会」ですかって話。

好間の北二区集会場で振る舞われるカレー。いちばん料理のうめえ母ちゃん作んだもん、うまぐねえはずねえべ?

味噌汁ってやっぱいいなって再確認でぎる味なのな。料亭どがに出でくんのとはまだひと味ちがんだ。

つどいの場は、こんな風に料理でもっておもてなしするところもあれば、お弁当は頼んでお味噌汁だけ自前で作るってところもあれば、お菓子や惣菜を持ち寄ってお茶会だけというところもある。でも、あづまってみんなでお茶飲み(おぢゃのみ)しながらくっちゃべる、ってのが基本なので、何かしら食い物は出てくる。まあつまり、基本的には「女子会スタイル」なんだね。

やっぱりみんなで食べるとおいしく感じる。そして、母ちゃんたちと、食の話をしたり、健康の話をしたり、暮らしの話をしたり。すると人によっては「ああ、最近おふくろとそんな話してねえな」って思い出して、実家に電話なんかかけてみたりするのかもしれない。つどいの場があるのは、地域の高齢者のためじゃなくて、自分のためでもあるのだと気づかされる。

雑誌に載ってるうまいもの食いに行くのは簡単。たまには雑誌に載ってねえ、でもほんとにうまい地域の味を探しに、つどいの場に遊びに行ってみねえがい?


公開日:2017年09月18日