つながることで「普通」をとりもどす

好間町 笠間 真紀さん


笠間真紀さんを取材したいと思ったのは、だいぶ前のことになるけれど、いわき市が主催する地域包括ケア推進会議で発表をする姿を見たときだった。名前はよく存じ上げていた。重度の障害児を持ち、母親として様々な活動していることも知っていた。「がんばってらっしゃるなあ」「すげえ人がいんだなあ」、そのときは、そんな印象を持っていただけだけれど。

発表は素晴らしかった。これまでのご自身の奮闘や体験談だけでなく、具体的な支援の必要性や、今後の事業の展開にも踏み込んでいらっしゃった。笠間さんたちは、近い将来、「どりーむず」という重度心身障害児のためのデイサービス施設をスタートさせることになっている。「思い」だけではない。実際に動いているからこその説得力。その力の源泉はどこにあるのだろうと、話を聞いてみたくなったのだ。

地域包括ケア推進会議。いわき市で在宅療養や地域包括ケアに関わる人たちの連携を深めるために行われている。

推進会議で発表する笠間さん。凛とした表情と声で、障害児のケアの現状を語られていた。

笠間さんたちが運営しているNPO法人「ままはーと」の事務所が好間にある。一軒家のようなところだ。指定された時間に伺うと、窓を開けてこちらに手を振ってくれた。招かれるままに事務所に入ると、驚いた。事務所が完成していないのだ(笑)。今まさにリノベーション中で、ファックスや事務用品があちこちに。何かが始まる、そんな、わくわくの予感があちこちに転がっていた。

「どりーむず」のスペースとして使われるところは業者さんが担当しているのだけれど、事務所のスペースは自分たちでリノベしている。母ちゃんパワーでリノベしたところは、ペンキの塗りが甘かったり、釘の打ち方が個性豊かな感じもするけれど、それがまたよい。「お金があるわけじゃないから自分たちでやるしかないんですよー」と笠間さんは謙遜する。いや、むしろ謙遜っていうか、むちゃくちゃ楽しそうで、「重度心身障害児デイサービス」なんて言葉の響きがむしろ邪魔になってしまうんじゃないかってくらいの溌剌さ。自分たちが必要だと思う場所を自分たちで作る。それはとても楽しいことなのだ。

「事業をやろう、みたいな感じでは全然なくて、こんなの欲しいね、ないなら自分たちでやってみようよ、というのがもともとの出発点でした。もし、いわき市内に重度の心身障害(以下、重心)の子どもを預けられる場所があったら、私たちはやらなくてもいいんだけど、やっぱり数も選択肢も限られていて。だったら自分たちでやろうって」

「ここが事務所になるところですー」と、仕事ポーズのリクエストに応えて頂いた笠間さん(右)と加藤さん(左)。

障害のある子どもたちが過ごすことになるスペース。何かがここで始まりそうな予感。

笠間さんの息子の理恩くんには重度の障害がある。普段の生活は付き添いが必要で、専門的なスタッフもいなければならない。市内で預けられる場所は数カ所しかないそうだ。障害のある子どもたちのなかには、呼吸器を外せない子もいるし、ほとんど寝たきりの子どもたちもいる。

だから、自由時間もほとんどなく、日々ストレスに苛まれ、自分を責めてしまう。そんな母親も少なくないそうだ。だからこそ笠間さんは、障害のある子どもを預けられる場所を増やし、母親に息ぬき時間を作りたいと考えている。

「子どもを預けたいというニーズと、受け入れ可能な場所の数が合っていないんです。預けられても週に一回だけとか。本当は、毎日でも預かってもらいたい。そうしたら仕事もできるし、息ぬきの時間もできるじゃないですか。けっこう前ですけど、役所で『自分の子どもなんだから自分で見れないの?』なんてことを言われたことがあって。なんか、お母さんだからこうしなさい、障害児の母親なんだからこう振る舞いなさいって要求されることが多くて。普通じゃダメなの?って思っていました」

「お母さんたちが『この子がいるから働けない』って言ってしまうの、悲しいじゃないですか。お母さんたちのなかには、介護の資格を持っている人や看護師さんもいらっしゃいます。そういう人たちが仕事をあきらめざるを得ないのはもったいないって。それで取り組みを事業化して、お母さんたちが働ける場所にしたいなって。だから『どりーむず』は、子どもたちの場所でもあるけど、お母さんたちの場所でもあるんです」

2階にはスタッフルームを用意している。ここは母ちゃんパワーでリノベ中。

笠間さんも加藤さんも、とにかく笑いが絶えない。場づくりを楽しんでいるんだなあ、ということが感じられた。

小児科医の数も充分とはいえないいわき市。障害児のケアの専門的知識を持ったスタッフの数も足りていない。ただ、笠間さんたちや理恩くんたちを支える能力を持った人たちはいる。例えば、高齢者の介護などに関わるヘルパーさんや看護士さんたちだ。

ヘルパーさんたちが普段相手にしているのは高齢者だけれど、技術も知識もある。子どもたちを相手にするという心構えさえ整えば、理恩くんのような重症の障害児のケアを担うこともできる。冒頭で紹介した「地域包括ケア推進会議」に笠間さんが呼ばれたのも、高齢者福祉と障害者福祉の「ごちゃまぜ」の連携を図る狙いがあったに違いない。

「高齢者でも子どもでも、やることに大きな違いはありません。まだまだ高齢者福祉と障害者福祉の担い手が連携できる余白はあると思います。お互いに、お互いのニーズが届いていないっていうか。例えば、私たちが声を上げることで、もしかしたら、介護職についている皆さんが『それだったら私たちにもできる』って気づくことができるかもしれないし、それがちゃんと病院の利益になれば、支援が持続的にもなるはずです。保険の制度の問題もありますが、それだって、お互いに声を上げていくことは大事。このあいだの会議では、そんなことも感じました」

にこやかに取材に応えて頂いた笠間さん。周囲の人たちが、いつの間にか応援したくなってしまう、不思議な魅力と突破力。

医療、福祉、当事者、地域、求められる連携

笠間さんの言葉からは、「連携不足」という、医療や介護の抱える大きな問題が見えてくる。お互いの領域を意識してしまうあまり連携が途切れてしまうのだ。笠間さんは、こう話を続けた。

「例えば、役所の人は『相談に来てください』とは言ってくれるけれど、本当に困っている人は相談に行くこともできないんです。だから『こっちからお話を伺いますよ』って相談を取りに行く。そして適切なところにつなげる。行政、医療、介護、親、本人、この連携が取れたら、現場の負担を大きくせずに、救われる人たちを増やすことにつながるんじゃないでしょうか」。

当たり前のことだけれど、福祉や医療に関わる人たちがいなければ、私たちの健康的な暮らしを維持していくことは難しい。福祉や医療に関わる人たちが最大限にその能力を発揮できるような環境を作ることは、つまるところ私たちの幸せな暮らしに資するということだ。介護や医療に関わる人たちの社会的地位や待遇の改善を図りながら、働く人たちの連携を増やし、関わりしろを大きくさせていくことで、問題点も炙り出され、結果的に地域の医療福祉が充実化する。「連携」は、その第一歩だ。

そしてその「連携」は、福祉や医療に関わる人たちだけでなく、地域や社会にもゆるやかに接合されたほうがいい。「なんか、猛烈に関心を持って小難しいことをやってても変わらないっていうか、いろいろな人たちが楽しい時間を通じて、結果的にお互いの抱える課題とかが共有されるほうがいいし、新しい気づきとか、価値が生まれるはずで、そっちにこそ目を向けられたらって思うんです」と、笠間さんはいう。

「新しくできる『どりーむず』も、ご近所の方とかにも来てもらいたいし、野菜いっぱいできちゃったんだーって農家の人が来てくれたり、そういう場所にしたいんです。重心の子どもの家庭って、やっぱり負担が大きいので、お子さんがその子一人だけってことが多いんです。だから、子どもたちがわしゃーって遊びに来てくれて、『その車いすなに?』とか『それ何に使うベルト?』なんて聞いてみたりして、普通に交流できる、そういう場所。なにも崇高な理念なんてなくて、ただ、普通に楽しく生きる。それだけなんですよ」

今、私たちがこうして子育てできるのも、昔から比べたら大きな進歩。以前から声を上げてきた障害児の親御さんたちとも世代を超えてつながりたい、と笠間さんはいう。

インタビューの終わり際、笠間さんはこんな話をしてくれた。理恩くんと、双子の弟の志恩くんのことだ。「うちの子が学校に上がるとき、理恩と志恩の学校が別になるんだって説明をしたんですけど、志恩は一緒の学校に行くつもりだったらしくて、『なんで理恩だけ違うの?  違わないじゃん、同じじゃん』って言われて。あれは本当に衝撃でした」。

本来は同じはずなのに、違うものとして扱わなければいけない。そして学ぶ環境を切り離されてしまう。私たちはそんな理不尽な社会に生きている。もちろん「違うこと」は悪いことじゃない。その違うことをいかに捉えるか、その受け止め方が大事だということだろう。

さっき笠間さんが言っていたことをふと思い出した。子どもたちが来て、「その車いすなに?」「それ何に使うベルト?」って、ちゃんと聞ける、ということ。そんな社会のほうが、何も言わずに過剰に配慮したり、決めつけで誰かを排除する社会よりどれほど健全だろうか。だから、「どりーむず」は、本来あるべき普通を忘れてしまった私たちが、子どもたちに普通を教えてもらう場所なのかもしれないと勝手に想像してみた。

そういえば、「どりーむず」の隣にはベニマルがあったっけ。ばんげのおかずの買い物ついでに寄っていくとか、そんな感じが似合いそうだ。そもそも施設の形状からして普通の民家だし。とっても普通で、普通なんだけれど、でも、とても大事な場所。どりーむずは、きっとそんな場所になっていくのだろう。

文・写真/小松理虔


公開日:2017年12月06日

笠間真紀(かさま・まき)

いわき市平出身。特定非営利活動法人ままはーと理事長。いわき市重症心身障がい児と家族の会スマイルリボン代表。5人の男の子の母。2018年、いわき市好間に、重症心身障害児デイサービス「どりーむず」を開所予定。

所在地
福島県いわき市好間町下好間鬼越79−3
TEL
0246-68-8266