普段、学校給食や医療福祉の分野で「管理栄養士」として働いている皆さん。震災後、その活躍がメディアでたびたび紹介される華々しい料理人の皆さんとは違う。むしろ、地域の「根本」で食を届け、健康を人知れず支えているような皆さんが、この日、堂々たる主役になった。
いわきの食材、郷土料理のメニュー、そして何より「もてなしの心」。おいしいだけじゃない。健康で、そして見た目も美しくて、体も心にも栄養が届く。食べると、この地域のことが、今よりまた少し好きになってしまう。そんな心のこもったお昼ご飯。
私たちはこの日、いわきの食を支える人たちの本気を頂いた。
特製ランチセット。いわきの食をふんだんに使っている。ミルメークなど学校給食を意識させるメニューとなりました。
ランチタイムに集まった皆さんが、最高のいわき食材を味わいながら舌鼓を打った。
いわきの漁師料理「さんまのポーポー焼き」。新鮮なすり身にネギ、ショウガ、味噌などを加えて混ぜ、焼いた料理。
学校給食リクエストナンバー1の「ツナごはん」。筆者も小学生の頃にこれを争うようにしておかわりしたのを思い出した(涙)
いわき市小川「小川きのこ園」のエリンギを使った、チキンとエリンギのトマト煮。いわきらしい料理と食材。
この日のおしながき。なんだこれー多すぎじゃね? と思わずにいられない充実のラインナップ。
おしながきをそのままこちらにも掲載しておこう。
【いわきのシェフより】
和牛の自家製ロースト ロースと野菜とともに(岩手牛のローストビーフ)
メイプルサーモンのマリネ(白河西郷村のメイプルサーモンのマリネ)
鶏肉のトマト煮込み(野菜・きのこと共に煮込みました)
【郷土食・学校給食より】
ツナごはん(学校給食リクエストナンバーワンのメニュー)
かつおの揚げ浸し(学校給食にも登場、いわき市の郷土料理)
さんまのポーポー焼き(学校給食にも登場、いわき市の郷土料理)
八杯汁(学校給食にも登場、いわき市の郷土料理)
いわきのトマトとライチのゼリー(学校給食にも登場、オリジナルデザート)
ミルメーク牛乳(懐かしのコーヒー味のほか、いちご、バナナも)
【いわきの味覚】
いわき産米の塩むすび(いわき産コシヒカリを、ふんわりむすび)
いわき梨(獲りたての、みずみずしい甘さ)
サンシャイントマト(酸味と甘みの可愛いトマト)
【お飲み物】
いわき産トマトジュース(フレッシュトマトをその場で搾って)
さんまのポーポー焼きとかつおの揚げ浸しは、いわきの浜の郷土料理のツインタワー。
たくさんの来場者がこのスペシャルランチを心ゆくまで堪能した。
脂身と赤身のバランスが最高。こんなにうまそうなローストビーフがかつて存在しただろうか。
華やかなお料理の前に歓声があがっていた。こんな贅沢な「いわきのランチ」、なかなか味わえないっ!
9月24日、いわき市中央台のいわき医師会館で開催された「山本雄士ゼミ」の皆さんと、いわき市の医療関係者とのディスカッション。その模様は、すでにこの「いごく」でも紹介している。いわき市の医師不足の問題を、外部の視点を交えながら考えようという会だ。普段は大学の医学部で学ぶゼミ生、いわき市の医療関係者ら60人ほどが、熱い議論を交わしていた。
この料理は、そのゼミに参加した皆さんに振る舞われた。メインはあくまで栄養士の皆さんの手づくり料理。サンマのポーポー焼き、カツオの揚げ浸しといった郷土料理は、学校給食で出されている味そのままで提供された。今のいわきの子どもたちはこんなにうまいもん食ってるのか! と会場からは嫉妬の声も聞こえた。
とろみのついた八杯汁。給食でも人気のツナごはんと、いわきライキ(いわき市産コシヒカリ)の塩むすび。いわき市産トマトのフレッシュジュースに、梨やゼリーといったデザートまである。もう一度言っておく。いわきの子どもたち、こんなうまい給食食べてるのか!!
途中まで、給食って懐かしいなあ、ミルメークかあ、飲んだなあ、なんて感傷に浸っていたのに、いわきの給食の充実さ加減に、正直嫉妬を禁じ得なかった。それだけ給食のノウハウが積み上がり、栄養士の皆さんが尽力しているからこそ。これがいわきの実力だ!
さらに、メニューの一部には、いわき市中央台の人気店「テラッツア」の星シェフが作ったお料理が三品。ローストビーフはこの世の食い物とは思えないほど妖艶な姿をしていたし、鶏肉のトマト煮は敢えて「白めし」に乗せて食べたいという誘惑を禁じ得なかった。そしてメイプルサーモンのマリネは、思わずうちの母ちゃんに食わせたくなった(私的な感想で申し訳ありません)。
いわきの給食のレベルの高さ。そして食の根本に関わる人たちの志の高さ。それが、今回のスペシャルランチには凝縮されていた。驚いた。そしてうまかった(ちゃっかり試食済)。
こんなにうまい飯を食ったのだから、いわきの医療のために、皆さんお力をお貸し下さい!
お料理は華やかでおいしいのに、手作り感満載の「給食パネル」が何とも言えない良さを醸し出していた。
結局トマトジュースでしょ? なんて思って申し訳ありません。なんで絞るとこんなに甘味と酸味がギュッと感じられるんだろう!
午前10時。医師会館の隣にある中央台公民館の調理場に、20人ほどの女性が集まり、黙々と調理する人たちの姿があった。いわき市の「栄養士」の皆さんである。いわき市の小中学校の給食に関わる、教育委員会の栄養士の皆さん。そして、病院や福祉施設などで患者さんの食事を考える栄養士の皆さんだ。ゼミの参加者の昼食を担当することになっていた。
ゼミ生の多くは医学生。その医学生がこれから「どこで働くか」を考えるとき、今ここでおいしいものを届けておけば、頭のどこかに「いわき市」が選択肢に入るかもしれない。それ以前に、せっかくいわきに来たのだから、精一杯のおもてなしをしよう。いわきの食の魅力を、このゼミを通じて学生たちに知ってもらおう。
そこには、いわき市民の健康を支える人たちの「自負」と「責任」があった。
朝から黙々と調理にあたった皆さん。おそろいのエプロンがかわいらしい。
ポーポー焼きは、1つひとつ成形して焼き上げる。絶妙なふんわり感。手ごねだからこその食感である。
お客様を受け入れる前の食堂。静かな、しかし思わず背筋がピンと伸びるような、準備の時間。
緑のエプロンの皆さんが学校給食に関わる皆さん。青のエプロンが医療福祉で食に関わる皆さん。
奇しくも、この日のディスカッションのテーマは「いわきの地域医療」。いわきでは、医師不足があちこちで叫ばれている。よその大都市に比べれば、確かにいわきの医療体制は充実しているとは言えない面もある。しかし、医師不足の課題解決は、行政だけが関わるべき問題だろうか。
ある医学生は、地域の人たちとの交流の重要性を話していたし、ある医学生は、地域そのものに魅力があるところで働きたいと話していた。誘致活動をするのは確かに行政だけれど、地域の魅力を作るのは、実は私たち市民たちのほうなのだ。
若い医師が暮らしやすい土地は、私たちにとっても暮らしやすい土地であるはず。だから、若い医師たちの気持ちもちょっとずつ汲み取りながら、私たちが住みやすい地域を、私たち自身が作っていく。それが結果的に医師の移住に繫がる。
私たちにもできることはたくさんある。そしてその「私たちにできること」は、医師を呼ぶために何か面倒なことをやれってわけではない。「自分たちが日常の暮らしを楽しむこと」の延長線上にあるべきものだ。だから、自分の得意な物をちょこっとずつ出し合うだけでいい。
食の根本を支えるという自分たちの役割を「学校給食のメニューを使ったランチ」というカタチにして、医師不足に一役買おうとランチを調理して頂いた栄養士の皆さん。その関わり方は、理想的な地域への関わり方そのものであるように見えた。医師不足を解決していくために必要なのは、まさに根本の「地域づくり」なのだ。
公開日:2017年10月02日