准看護師を目指す、ということ 


医療や福祉の担い手たちは、なぜそのような道に進むのだろう。医療や福祉という、人の命や幸せに近い距離で接する仕事でありながら、やはりその仕事は激務。その道を目指す志の根底には、誰かの役に立ちたい、人の幸せにつながる仕事がしたいという思い、つまり「いごきの精神」のようなものがあるのではないか。いごく編集部は、医療や福祉を目指す人たちの声を聞くために、いわき准看護学校を訪ねた。

 

—准看護師とは?

いわき市中央台の大型店が並ぶ一角に、その学校はある。いわき市医師会附属いわき准看護学校。1年生と2年生、146名の生徒が学ぶ。1年次は主に基礎科目や専門理論を、2年次にはどんどん現場に出て実習を重ねる。2年間のカリキュラムを終え、県の課す試験にパスすれば、晴れて准看護師としてのキャリアが始まる。

看護師と一口に言っても、実際には二種類ある。救命救急や医療機関など、バリバリの現場で医師をサポートする国家資格の正看護師と、医療や介護、障害福祉や保育園など幅広い領域で医療的サポートを行い、都道府県が認可する准看護師。日本看護学会の統計によれば、看護師は全国に110万人、准看護師は35万人あまりいるそうだ。

働き方も異なる。正看護師のおよそ7割が病院で働いているのに対し、准看護師は、病院が4割、それより小さい診療所やクリニックが4割、残りは老人の介護施設や社会福祉施設などで働いている。准看護師は、看護師よりも広く医療と福祉の両面で活躍しているわけだ。それでも数が十分足りているわけではない。特に准看護師は、介護施設や福祉施設などでの活躍が期待される。

いくつもベッドが並ぶ実習室。まさに病院そのもの。

取材に協力頂いた2年生の6人。それぞれに思いを持って、日々勉学に励んでいる。

その准看護師を目指す生徒の皆さんに会いにいくと、出迎えてくれたのが、模擬実習に使われる人形「じゅん子」さん。なかなかキレのある面構えをしている。男子の生徒さんが「じゅん子」さんを抱えて記念撮影に応じてくれた。みなさん、とても明るくてとにかく好感が持てる。医療や看護を学ぶと言っても、しかめっ面して黒板とにらめっこしているわけではないのだ。

1年次には、模型や人形を使った実習や、医療や介護、看護についての基礎を学ぶ授業を受け、2年次には、授業のほとんどを病院や福祉施設などの実習先で行う。取材に協力頂いた六人は、いずれも2年生。2月に控えている試験にパスすれば、希望する進路に進むことができる(当然全員合格だ!)。ある人は正看護師を目指して進学し、ある人はクリニックへの就職を希望し、ある人は、もともと所属していた介護施設に戻ることになっているそうだ。

扱う器具は、もちろん実際に医療現場で使われているもの。実習は毎回緊張が走る。

実習のための人形。実はけっこうハイテクで、様々に異なる心音などが流れ、それを聞き分ける力を養うことなどもできる。

実習を終えた2年生によるレポート。病院だけでなく、介護施設、障害者の福祉施設、産婦人科などでも実習を行う。

話を聞いていて驚いたのだが、高校を卒業してからこの道に入ってくるという人よりも、一旦社会に出て准看護師を目指すという人の方が数は多いそうだ。実際、この六人のうち四人は、社会人経験を経てこの学校に入ってきた。男性の一人は、かつては電気工事の現場監督をしていたそうだ。地域に根ざし、家族とともに暮らせるような仕事に就きたいということで、入学を決意したと語ってくれた。

ある女性の話が印象的だった。彼女は、もともと介護施設でヘルパーをしていた。ヘルパーをしていると、痰を吸引したり、点滴を打ったりする場面に遭遇する。しかし、ヘルパーは医療的行為を行うことが禁じられている。目の前に苦しんでいる人がいるのに、自分は何もできず、ただただ看護師を呼ぶことしかできない。いつもその方と接しているのに、困った時、助けが必要になった時に何もしてあげられない。そんな自分が悔しかった。そんな話だった。

介護に関わる人だから、元から人の役に立ちたいという思いの強い方なのだろう。だからこそ、何もできない自分に悔しさを感じたのかもしれない。准看護師の資格があれば、ヘルパーとしての役割と、准看護師としての役割の二つを「一人で」行うことができるようになる。「ヘルパーの限界を感じて学校に入りました」。彼女はきっぱりとそう話してくれた。

もう一人の女性は、自分が出産を経験したとき、産婦人科の現場に准看護師の数が足りていないという現状を知り、自分がその役に立ちたいと、自ら准看護師になることを志したという。

赤ちゃんの人形を使っての実習。意外とかわいく、体重もリアルで、本物の赤ちゃんを抱っこしているような気持ちに(筆者・一児の父、談)

生徒が進む道はそれぞれ。介護と医療を橋渡しするような人材が求められている。

なんて人たちだろう。私は思わず、なんともいえない「心強さ」を感じた。そんな人たちが、中央台で学んでいることを知らんかった。皆さん、気さくに撮影に応じてくれたり、ポーズを決めてくれたり、いちいち対応が大人で、そして明るい。こんな人たちに、自分の健康や暮らしをサポートしてもらえたら、どれほど心強いだろう。

いわき准看護学校で、次年度の募集も始まっている。詳しくは、この記事とは別に、募集要項をまとめた記事をアップしている。平成30年度の二期募集である。これを逃すと、准看護師になることを望んでも、また次の年まで待たなければならない。医療や介護に興味はあるけれども、どの道に進んでいいいかわからない人。あるいは、すでにヘルパーとして働いているけれど、さらにステップアップをしたいという人。別の仕事をしているけれど、介護や医療の世界に転職をしたい人など、思いがある人は、ぜひ試験を受けてみてはいかがだろうか。

人に感謝されることが、自分の喜びになる。そんな他者への奉仕、貢献の気持ちが、社会から求められている。

2年で准看護師になって現場で活躍してもいい。さらに進学して正看護師を目指してもいい。今後、人の老いや病気、死に関わることの意義は、ますます大きなものになっていく(「いごく」がスタートしたのも同じ理由だろう)。地域の医療や福祉、介護の世界には、皆さんが「いごきまくれる」広大なフィールドがある。そこで、皆さんの「働きがい」や「生きがい」、そして「いごきがい」が、きっと見つかるだろう。


公開日:2018年01月15日