2018年2月3日。いわき市地域包括ケア推進課が主催して、生老病死の祭典「igoku Fes 2018」が開催された。いやすみません。生老病死の祭典とか言われても「ふざげでんのがおめー!」で終わりかもしれない。しかしなんだろうなあ、何度も振り返ってもそうとしか思えないのだ。
確かにあの空間で、生、老、病、死が、なぜだかゆるやかに(そして不謹慎に)つながり、そして最終的にはどこかハートウォーミングで、なーんかほんわかとしてしまって、思わず「生きてるって素晴らしいな」と根拠なく思えてしまう。そう、あれは確かに「生きることの祭典」であった。
多くの人たちは、あのイベントを一言で総括することができないだろう。私もだ。現場で感じたことを咀嚼するには、まだあと数日はかかるだろうし、あそこで生まれた問いに答えを出すには、下手をしたら何十年もかかるのかもしれない。それでも、あのイベントが何だったのか、いごくフェスとは何だったのかを書き残さずにはいられない。
イベントで感じたことを忘れちゃわないように、みんなの備忘録として、いごくフェスで起きたことをまとめておこうと思う。これから4回くらいにわたって書くつもりだ。行った人も、行けなかった人も、思い出しながらあるいは「こんな感じだったのか」なんて想像しながら読んで頂ければ幸いだ。
いごくフェス2018、すべてのプログラム内容。(撮影:中村幸稚)
開演前の一コマ。老若男女、たくさんの人がやってきた。(撮影:鈴木穣蔵)
配布された冊子に目を通すご婦人方。しっかり開演前に集合して下さった。(撮影:白圡亮次)
太陽の当たる席で、開演前のまったりとした時間を過ごす人生のパイセンたち。(撮影:白圡亮次)
いごくフェスは、いわき市地域包括ケア推進課が開催した地域包括ケアの祭典である。
と言われてもピンとこない。「地域包括ケア推進課」という、地域の医療福祉を担う、いわき市役所の一部署がフェスを開催したということなのだが、え? 高齢者福祉とフェス? はぁぁっ? って感じだろう。そもそもがよく分からないイベントなのだ。主催者だって同じようなものだろう。
第一会場はアリオス中劇場での「ステージショー」である。皆さんよく知らないと思うけれど、アリオスの中劇場というのは満員になると700人くらいの人が入り、それこそ、いわき市で最も敷居の高い劇場の一つなのだ(もちろん最高峰は大劇場である)。そこそこ大きな劇団だって中劇場を使うには勇気が要る。それなのに、なぜか「いごくフェス」は、初回のくせに中劇場をブッキングしてやがる。けしからんぞ!
いごくフェス2018ステージ開演。トップバッターはオナハマリリックパンチライン。(撮影:中村幸稚)
冒頭からイカつい男たちが揃いのTシャツに身を包んで激しくラップ。(撮影:鈴木穣蔵)
いよいよ開演。地域包括ケアだから、地域の福祉や医療について、医師や専門家の話を聞いたり、健康のためにいいシンポジウムが聞けると期待していたのに、トップバッターがオナハマリリックパンチラインとかいうグループによるラップ披露である。
おいおい、若い家族連れのお客もいるにはいるけど、観客席の半分くらいはケーシー師匠の漫談を聞きにきた妙齢の皆さんだぞ。だいたい福祉の「まじめな」イベントなのに、なんで最初がラップなんだよ。そんなんじゃ絶対盛り上がらねえよ!!! 地域包括ケア推進課、ふざけるなよ!!
(おそるおそる後ろを振り返る)
↓
↓
ヤバい。みんな拳突き上げてノリノリじゃん。(撮影:鈴木穣蔵)
アリオス中劇場が福祉ラップの熱狂に包まれている。(撮影:鈴木穣蔵)
なんだこの光景は。福祉のイベントじゃないのかよ! (撮影:白圡亮次)
えっ(恥ずかしそうに周りを見て)、会場の皆さん、ノリノリじゃん・・・・。
曲の冒頭こそ呆気にとられてたように見えたけれど、1曲目が終わる頃には皆さん首がタテに動いてたし、オナハマリリックパンチラインのメンバーが「say イエーイ!」とか言ってコール&レスポンス促したら、会場から「イエーイ!」とか返ってくる。正直なところ、その辺のヒップホップイベントに来るヘッズよりノリがいい。老いも若きもちゃーんと「フェス」を楽しんでいるのだ!
それだけで驚きだったのに、レペゼン内郷スペシャルゲスト。伝説の踊り子from川平、いごくフェスのメインビジュアルにも使われた川平の母ちゃん in tha house yo !!!
壇上にあがった川平の踊り子! (撮影:中村幸稚)
中劇場500人の観衆を前に堂々たる舞い (撮影:白圡亮次)
あっ、ほんとだ! ポスターのお母ちゃんだ!
もともとメンバーだったの? ってくらいの違和感のなさ (撮影:白圡亮次)
永久保存版の画像。著作権フリーです。ご自由にコピペしてお使い下さい。 (撮影:鈴木穣蔵)
ラッパーたちの隣でヒザを何度も何度も上下させて川平ダンスを披露。見てよこのヒザの動きのスムーズさ。会場に来ていた理学療法士も顔が青ざめてた。ヒップホップどころかドラムンベース級のBPMを刻んで、会場全体を湧かせていらっしゃった。
いごくフェス、やべえな。なんだこのイベント。
でね、よくよく考えるとこのお母さんね、頼んでもないのに「てぬぐい」と目にハメる「キャップ」を持ってきてるわけ。すごい。だって「どこかで出番があるかもしれない」って思って準備してきたってことだから。これが川平の皆さんの心意気なんだ。常に準備しておく。これが芸人だよ。
こんなの見せられたら、たまんない。いごくフェスに関わる若者たちを応援したい、盛り上げてあげたい、きっとその思いだけで動いて下さったのだろう(本当はただの宴会神かもしれない)。その一心で、ヒザが壊れちゃうんじゃないかってくらいに派手に動かして、会場を盛り上げて下さった。皆さん、これが、かの有名な「川平魂」です。
立つ鳥跡を濁さず。それが芸を究めた者の流儀。 (撮影:中村幸稚)
—いわき市民であることを誇りに思えた「いごく表彰式」
感動的だったラップが終わると、いわき市地域包括ケア推進課が、2017年にもっとも「いごいた」人と団体を表彰するという表彰式。いごくとは、地域の「暮らし」と「人」の間を「いごいて」、その地域によりよい暮らしをもたらそうと動くこと。つまり一言で言えば、地域のためにいごいた人を表彰しようというものだ。
いごくフェスのメインイベント「igoku表彰式」。市内の「地域包括ケア」実現のためにいごいた人と団体を表彰。 (撮影:白圡亮次)
表彰式の司会はロクディムの渡さん(左)とカタヨセさん(右)。プレゼンターはケーシー高峰師匠が務めた。 (撮影:中村幸稚)
個人部門、つどいの場部門、団体部門の3つがある。それぞれ受賞者を紹介する。
生涯現役で賞 片寄清次さん(菓匠梅月 店主)
いごくでもインタビュー記事を紹介した梅月の片寄さんが個人部門で受賞。何といっても、菓子職人としていごきまくったその歴史と経験、まちづくりへの貢献度、さらには、次の梅月を背負って立つ五代目(清次さんの孫にあたる)との絆。断トツの存在感であった。
個人賞を受賞した菓匠梅月の片寄清次さん。87歳。立つ姿がとても美しい。 (撮影:鈴木穣蔵)
地域“食(SHOCK)”賞 好間北二区集会所
つどいの場部門は、好間の北二区集会所。この集会所のすごいところは、地域の母ちゃんたちが、地域の高齢者を食で支えているという点。60代の若手の母ちゃんが集会所の「つどい」の日に合わせ、カレーやらハンバーグやらを調理し、もっと高齢の母ちゃんたちの食事をサポートしているのだ。
好間北二区はかつての常磐炭鉱の産炭地である。一山一家の精神が未だに息づく。元気な人たちが、ちょっとだけ弱った人たちを支える地域社会。これこそ地域包括ケアの理想型の一つなのだ! すげえよ北二区の母ちゃんたち! おめでとうございます!
つどいの場賞を受賞した好間北二区集会所の皆さん。(撮影:鈴木穣蔵)
地域の高齢者の生活を「食」で支えている北二区のお母さんたち。(撮影:鈴木穣蔵)
Most Impact Player M.I.P賞 劇団たっしゃか
団体部門は、草野公民館で行われている「たっしゃか草野」という会で「在宅医療演劇」を披露した劇団たっしゃかの皆さん。この劇団、何がすごいかって、現役の医師やケアマネ、ヘルパー、薬剤師や栄養士が「役者」をしているところ。
しちめんどうくせえ説明するより「寸劇やったほうがいいじゃん」ってことで劇団を結成して、高齢者の集まる「つどいの場」で、その劇を披露している。異次元のいごきを見せた劇団たっしゃかの皆さん、ハンパない。この日はフルメンバーが集合し、喜びを分かち合った。
名前が読み上げられると、観客席から劇団たっしゃかの皆さんが舞台上へ。(撮影:中村幸稚)
医療福祉が役者として活躍する劇団たっしゃかが団体賞を受賞。(撮影:中村幸稚)
いわき市の映像作家、田村博之による動画が感動を演出。(撮影:鈴木穣蔵)
こうして、地元でいごいた人が表彰されて、アリオスの中劇場に、すごいいい感じの映像が流れて、そして壇上で挨拶する。なんかとても誇らしい気持ちになった。有名人じゃない。みんな「現場」の人たちだ。自分でも不思議だけれど、なんか自分も報われた気がした。自分たちと地続きのところにいる人たちが、地域の間をいごいていることを知ったからだろう。
梅月の片寄さん、北二区の母ちゃんたち、たっしゃかの皆さん、それぞれが、それぞれにできることを一生懸命に楽しんで、その楽しむことが、楽しいがゆえに少しずつ地域にはみ出し、そのはみ出した部分が「関わりしろ」のようなものを生んで、そこに多様な人たちが関係していく。今流行りの「関係人口」の、なんというか源泉のようなものを、皆さんの活動から感じることができた。
楽しく、自分にできることをやる、それが地域につながって、生きがいになる。皆さんの受賞が心からうれしいと同時に、おおおおお、自分たちもなんかがんばろって思えた瞬間であった。
そしてまたこの表彰式、3つの部門の受賞者を撮影した映像が制作された。映像を制作したのは、いわき市在住のビデオグラファー「OUTBACKfilm」こと田村博之。普段はフリースタイルのスポーツやストリートのカルチャーを撮影している男である。田村の持つストリートへの感性が存分に発揮された素晴らしい映像だった。映像は、このあと、このサイトにも掲載予定だ。
受賞者全員で記念撮影。いごきまくった「現場」の人たちに盛大なる拍手を。(撮影:白圡亮次)
田村が撮影と編集を担当した映像。感動の大作は近日中にYoutubeにもアップ予定。(撮影:鈴木穣蔵)
初回のレポートはここまでである。本当はステージだけで1本の記事にまとめようと思っていたのだが、書いているうちにいろいろ思い出して、そしてまた写真がよくて。思わずここまで引っ張ってしまった。次回は、即興演劇集団ロクディムのパフォーマンスと、ケーシー高峰師匠の漫談の模様を紹介していく。
文/小松理虔(いごく編集部)
写真/白圡亮次、鈴木穣蔵、中村幸稚
公開日:2018年02月07日