高齢者の6人に1人がなると言われる認知症。患者数は全国に600万人、これからますます増加することが予想され、地域との連携や、医療福祉のますますの充実が求められています。そんななか、いわき市小名浜では、商業施設のスタッフが認知症を学ぶためのセミナーが開かれました。主催したのは、間もなくグランドオープンする「イオンモールいわき小名浜」です。ショッピングモールと認知症。どのような関わりがあるのかを取材しました。
いわき市小名浜にある小名浜市民会館。スーツや制服に身を包んだ数百人の人たちが、壇上の講師の話に耳を傾ける姿がありました。講習会に参加したのは、イオンモールいわき小名浜に就職が決まっている新規スタッフの皆さん。グランドオープンを前に、新しいスタッフに認知症のイロハを知ってもらおうと、イオンモール側が自主的に主催したものです。
壇上の講師は、小名浜地域包括支援センターのスタッフ。認知症の現状や、認知症の特徴のほか、認知症かどうかを見分けるポイントなどを分かりやすく解説していました。たとえば、同じものを何度も買っていってしまう。ポイントカードや会員証をすぐに紛失してしまう。なんだかあてもなくお店の中を彷徨っている。認知症の患者方に特有の行動を知ることで、トラブルを未然に防ごうというわけです。
それだけではありません。認知症は、普段の生活のなか(とりわけ買い物)に、症状の進行がより明確に現れてきます。買い物の途中で、銀行で、あるいは薬局や病院で、「おばあちゃん、ちょっと様子が変だな」と分かる端緒があると言います。
しかし、家族は仕事などもあり、高齢者の外での様子を知ることができません。いつの間にか重症化し、どうしたらいいかわからない、気づいたら施設に入れるしか選択肢がない、なんてことが起きやすく、その段階でようやく病院にやって来ても、かなり進行してしまっていることが多いそうです。
鍵を握るのが、高齢者がよくお買い物をするお店のスタッフ、たとえば薬局の薬剤師やスーパーの店員などです。そうしたお店の人たちが、高齢者の様子を把握し、「これは認知症かもしれない」「ちょっと進行しているな」と見抜く気付くことができたら、家族への連絡も速く早くなり、病院や施設、ケアマネージャーたちとの連携も速まります。症状が悪化する前に対応できれば、進行を遅らせることもできるともいいます。
本人、家族、生活のなかで出会う地域の人たち、お店や銀行、薬局の人たち。みんなが少しずつアンテナを張ることができれば、認知症の早期発見や、重症化予防につなげることができる。地域の人たちが、すこーしずつ負担をシェアすること。それはまさに「地域包括ケア」そのものです。
実はいわき市、こうした商業施設との連携は初めてではありません。誰もがよく知るスーパーでもこうした「認知症研修会・認知症サポーター養成講座」を頻繁に開催し、スタッフへの啓発を図っているそうです。
その結果、少しずつ、高齢者の生活圏に認知症の理解者が増えることになれば、トラブルになっても、大騒ぎすることなく、穏便に、そして迅速に対応することができるようになる。認知症の方が暮らしやすい社会につながります。
認知症の方が暮らしやすい社会を作ろうとすることは、いずれ自分や家族、友人が認知症になったときに自分に返ってきます。だから福祉とは、名前も知らない誰かの生活の質を上げる「利他的」な取り組みなのではなく、やがて自分に返ってくるからこそ努力しようと思えるような、極めて「自利的」なものでもあります。
この日、講習会に参加した人たちの表情がとても真剣だったのも、モールのスタッフとして知識が必要であるだけでなく、いずれは自分の家族が認知症になるかもしれないという「当事者意識」があったからでしょう。国も県も市も、認知症の数が爆発的に増えていくことを未来予想図として描いています。認知症を地域で見守ることは、もはや理想論でもなんでもなく「リアリズム」なのかもしれません。
いごくでは、これからも認知症の問題を追いかけ、いごくスタイルで発信していきます。
公開日:2018年06月04日