生きるとは、死に向かって歩く旅のようなもの。そしてどこまで続くか分からない。もしかしたら明日死ぬかもしれない。かたや、100歳まで生きれるかもしれない。
そんな人生を、逆さまに「死」から逆走する旅、「いごくツアー」が12月26日に開催された。このツアーに参加したのは埼玉県立不動岡高校の生徒28名と先生5名。福島県が企画するホープツーリズム事業「ふくしま学宿」の一環として行われた。ツアーは全行程で3日間あり、初日と二日目の午前がいごくツアー、二日目の午後以降が浜通りの被災地を巡るツアーになっている。
実はこの不動岡高校、去年もホープツーリズムでいわきに来ていたのだが、引き続きいわきの動きをフォローしてもらっているうちに「igoku」の取り組みに興味を持って頂き、先生から直にオファーが届いて今回のツアーが決まった。いごくツアーの全ての企画とコーディネートは、いごくチームが行った。ご協力頂きました皆さまに、改めて感謝。ありがとうございました。
【いごくツアーの全コース】
1、中央台公民館で入棺体験 feat. みよの杜、霜村真康(from菩提院)
2、きざみ食&ペースト食弁当 feat. 加藤すみ子
3、中山元二先生レジェンド講義 in かしま荘 からの施設内見学
4、介護体験 in サニーポート小名浜
5、好間北二区でいわき最強ディナー with 北二区のばばあ
6、二日目「いごくツアー振り返りワークショップ」 in Jヴィレッジ
プログラムは、いごくフェスではお馴染みになった入棺体験で「死」を体験することから始まり、いわきのレジェンド、かしま病院名誉理事長の中山元二先生の「死を考える」講義を受け、さらにその中山先生の立ち上げた特別養護老人ホーム「かしま荘」を見学し、特養老人ホーム「サニーポート小名浜」で実践的な被介護体験をし、最後に好間北二区集会所で元気なお母ちゃん手作りの夕食を食べて終了という非常に充実したものになっている。(二日目はレポート後編でお伝えする予定)
死の体験を入り口に、死の手前の重めの要介護状態、さらには70~80代の介護を体験し、最後には元気なお母ちゃんの地域福祉の実践の場に立ち会うという、まさに「死」から逆走するツアー。今までigokuが取り組んできたことがぎゅぎゅっと濃縮されている。それでは早速、写真とキャプションで振り返っていく。
–11:00 到着直後、いきなりの死の体験
到着していきなりの入棺体験。驚いた生徒も多いと思いますが、まずは「死んでみる」という、一番インパクトの高い体験を通じて、いごくワールドにどっぷりと浸かってもらいます。最初はみんな大騒ぎ。でも、霜村副住職が鐘を鳴らし、念仏を唱え始めると・・・・。実際にここが葬儀を思わせる場になることで、向こう側からこちら側を見てみる。そんな視点を得てもらいます。
−12:00 高齢者が食べている介護食を実際に食べてみる
入棺体験の後はランチ。でも普通の弁当じゃつまらない、ってことで、管理栄養士の加藤すみ子さんの協力で、普通のお弁当、きざみ食弁当、ペースト食弁当の食べ比べを行いました。具材はみんな同じなので、見た目や食感の比較ができます。普段食べているものとの食感の違いに、生徒たちはかなり微妙な顔をしていましたが、なぜこのような食が介護の現場で求められているのか、おいしさとは何か、おいしく食べるためには何が必要なのかなどを、実際に食べながら考えていくのがミソです。
生徒たちがどのようなことを考えたのか、それは二日目の「振り返りワークショップ」で明らかになるのですが、それは後編のレポートにお任せして、ツアーを次に進めていきます。
−13:30 3000人以上を看取ったレジェンドから学ぶ「死」
さあ午後の一発目は、いわきのレジェンド、中山元二先生の講義です。テーマは「死」。かなり重いテーマですが中山先生も遠慮しません。終末医療の話も絡め、生前にどのような終末期を迎えたいかの意思を問う「リビングウィル」の考えや、医学的な死/社会的な死など、死に対する複数の見方を提示しながら、「いかに生き、いかに死ぬかを考える機会を持とう」と生徒たちに力強く語りかけました。
死とは何かなどそれほど考えてこなかったであろう生徒たち。昼食後の講義は「眠気」との戦いもあったと思いますが、必死に食らいつき、必死にメモを取っていました。生徒たちのメモ書きに、その充実ぶりが表れていた気がします。
講義のあとは、かしま荘を見学。かしま荘は、いわきでも最初期に建設された特別養護老人ホームです。居室は「4人部屋」。新しい老人ホームが「個室」であるのに対し、かしま荘の4人部屋の狙いや、4人部屋の老人ホームだからこその効能などを学びました。生徒からも「人の声が聞こえてきて、働いている人も利用する人も楽しそうだった」と好反応。高齢者の暮らしぶりから様々な学びを得たようです。
−15:00 介護する人/される人を一人称で体験
特別養護老人ホーム「サニーポート小名浜」の皆さんの最大限の協力を頂き、施設のユニットの見学のあと、3つのグループに分かれての体験プログラムを行って頂きました。介護スーツ体験、お風呂体験、被介護体験。それぞれ実際に体を動かして、おじいちゃんやおばあちゃん、ヘルパーさんになりきっての体験です。
こんな贅沢な体験プログラム、なかなかできません! 実際の老人ホームのお風呂に入っちゃうのなんて凄すぎます。凄すぎるがゆえに、座って話を聞いているのとはまた違う箇所が刺激されます。ああ、こういうことなのかと身体が覚える。そしてそのあとに、己の学びを言葉に出していく。体験あっての学び。それがいごくツアーです。
−17:30 ばばぁの心意気と、いごくの精神を味わう夜
初日最後のプログラムは好間北二区での夕食でした。北二区は、地域の母ちゃんたちが後期高齢者を「食」で支える取り組みを行っています。介護施設を利用しながらも、支援の必要な高齢者を地域の元気な高齢者で支え合う。「地域包括ケア」なんて言葉を使わなくても、地域のなかで行われてきたリアルな支え合いを感じてもらうための夕食でした。
生徒たちの底抜けの笑い声が最高でした。今は何も考えなくていい。むしろ考えるな、感じろ! といった感じでしょうか。本当に最高の空間になっていました。多くの学びが、きっと「あとになって」思い起こされることでしょう。
−初日を振り返って
入棺という死の擬似体験から始まったこのツアー。死から始まり、介護施設に入居される方、元気な母ちゃんまで、たったの1日で「40年」の人生を巡っていった。なんとなくしかない死のイメージが、自分の父親や母親の世代とつながって、一気にリアルなものに感じられた。
このツアーではどれも「体験」に重きが置かれている。入棺体験、きざみ食・ペースト食の実食、車椅子での入浴体験や、介護用オムツの体験、疑似老人スーツの体験などだ。そしてどれも、体験したことで「どう感じた?」という問いかけが必ずなされていた。
人間の想像力には限界がある。体験したことがないものは、どうしたって分からない。体験し、どう感じたか。体験していれば、お年寄りの気持ちに寄り添えるかもしれない。例えば、のろのろ階段を登る老人がいたとしたら。これまでは「邪魔だな」と思っていたところが、疑似老人スーツの体験をした後にはその辛さが分かるから「手伝ってあげよう」という思考に切り替わるかもしれない。体験を通じて他人の気持ちに少しでも寄り添えることが、少しだけ優しい世界につながっていくような気がした。
好間北二区公民館での元気なお母ちゃんたちは、50人分もの食事を外から来た人のために作ってくださった。なぜそこまでしてくださるのか。それは元々好間という地域が炭鉱で栄えた町で、長屋暮らしが長かったからだということが関係しているかもしれない。長屋暮らしでの共同体意識から、自分でご飯を作れなくなったじいちゃん、ばあちゃんのためにご飯を作ることは当たり前のことなのだそうだ。
また炭鉱という「よそ者が来るという状況」への慣れもあるという。何よりお母ちゃんたちが楽しそうに笑っている姿が本当に印象的だった。その笑顔に引き込まれて、高校生も先生も、igokuのメンバーも含めて暖かい空気に包まれていた。
中山元二先生の講義の最後の締めの言葉は「年をとったら幸せにならなきゃいけない」だった。好間北二区公民館は、まさに幸せの風景だった。幸せに暮らす人たちを見ていると、ああ、俺も老後はこうありたいなあとイメージが浮かんでくる。支え合う形が本当に素晴らしいし、旧産炭地ならではの支え合いの文化がいわきの他の地域にも、そしていわきの外にも広がっていったらもっといいなと思う。それは回り回って自分の老後にも繋がってくるはずだから。
28歳の僕にとって、死や老後というものはもちろん考えたことはなくて、今回のツアーを通じて少しだけ身近になった気がする。死を考えることは、どう生きたいか、どう生きて欲しいかを考えること。遠い話のようで、そうでもない。家族や親戚、周りの知り合いを含めたら、すぐそばにあるものだ。期せずして年末。実家に帰省した時に、この「死」の話をお母さん、お父さんと話そうと決めた。まずは自分の周りから始めていこう。
今回、ホープツーリズムに参加した高校生数人になぜ参加したのか聞いた。いわきの地域包括ケアが気になって、という意見もあるかなと期待したがなかった。「前回の原発のツアーが良かったから」「復興の状況が見たくて」という学生が多かった。彼ら、彼女らにとってこのツアーは不意な体験かもしれない。でも、それでいいのだ。復興の様子を見に来たと思ったら、なぜだかじっちゃんばっちゃんの気持ちがわかるようになったなんて素敵な話ではないか。
外から来てくれるということは、いわきだけの取り組みを持ち帰ってもらえるということ。もしかしたら持ち帰った先でふわっと広がっていくかもしれない。ましてや彼らは高校生である。来年元号が変わって、その時代は多分社会人になった彼らの世代が支えていくことになるだろう。その時にこの体験を元にもっと社会をよくしていこうという動きにもつながるかもしれない。若い子たちこそホープ、希望そのものなのだ!
(生徒たちは、ツアー2日目にいごくツアーの振り返りワークショップを行った。彼ら自身はこのツアーでどう感じたのだろうか? その模様は次の後半でお伝えする)
報告:森亮太(mogura)
公開日:2018年12月29日