老人ホームの地域連携で、もっとつながる

小名浜の5つの「特養」をめぐるバスツアー


 

福祉施設で働く人からも、これから利用したいという人からも、職員を採用したい施設長からも、実際に老人ホームを見て(見てもらって)、施設の人(就職希望者)たちと言葉を交わし、交流できるツアーがあったらいいのに。そんな声をもとに実現した「介護施設をめぐるバスツアー in 小名浜」。小名浜とくよう会が主催して、昨年11月末に開催されました。一挙に5箇所の老人ホームをめぐることで、就職希望者や利用希望者と施設をつなごうというものです。

今、市内の福祉施設では「働き手の不足」が問題になっています。が、老人ホームって、施設ごとに特徴が大きく異なるし、そもそも老人ホームがどういう施設なのか、あまりよく知られていないんです。ならばとにかく開放して見てもらおう。バスで巡れたら最高だよね。というわけで企画されたわけですが、さて、どこをどのように見て回り、どのような声が上がったのか。写真とともに振り返っていきます。

 

和モダンな雰囲気の老人ホーム「寿限無」「寿楽」

 

まず一行が巡ったのが、泉にある「寿限無」という老人ホーム。隣接するもう一つの施設「寿楽」と合わせ、まるで温泉施設のようなデザイン。働いているスタッフも若く、しかも男性が多いのが特徴で、施設内に保育園があったり、施設のイベントやデザインには職員のアイデアが反映されていたり、利用者とスタッフの仲が良かったり(スタッフと利用者が一緒にお風呂に入っている写真なんかもあって)、働く人たちの風通しも良さそうです。

 

ツアー参加者からは、さまざまな質問が飛びます

 

こちらは「寿楽」の会議室。こんなところで日々仕事ができたら最高ですね

 

寿限無には「機械入浴」はありません。自分でできることを、できるだけ長く自力でできるよう、職員はそれをしっかりと見守り、支えるというスタンス。寿限無の石綿施設長はこう語ります。「今までは皆さん何事も一人でやってきたと思いますが、ここからは、誰かに支えられる暮らしを新しくスタートさせて欲しいんです」と。新しい暮らしを感じさせるデザイン。そして職員の活気。理念と施設がつながります。

 

2軒目、サニーポート小名浜の屋上にて。最高の景色です

 

次に一行が向かったのが、サニーポート小名浜。小名浜にある中村病院が運営母体となっている施設です。こちらはシティホテルのような佇まい。女性の働き手が多いことから、子育てのサポートが充実しています。施設内保育園もあるし、大きな社員食堂では忙しい朝も(昼も夜も)食事をとれるし、子供の送迎サポートもある。道理で女性の定着率が高いわけです。ツアー参加者が熱心にメモを取っていました。

 

シティホテルのようなサニーポート小名浜。清潔感のある、落ち着いた雰囲気

 

車椅子のまま入れるお風呂なども見学することができました

 

居住スペースだけでなく、バックヤードの環境整備もしっかりしています。その一つが、施設の中に張り巡らせた「次亜塩素酸水」。消臭・殺菌効果が高く、居住スペースだけでなく、洗濯場やゴミ捨て場、洗濯場などでも噴霧しており、老人ホーム然とした「臭い」がほとんど感じられません。これが目に見えない働きやすさにつながっているんです。暮らしやすさと働きやすさが共存していました。

 

最新の老人ホーム「にじの郷」。細部までデザインされ、居心地の良さを感じました

 

3箇所目は、生協病院のすぐ隣にある「にじの郷」。今回めぐる施設の中では最新の老人ホームです。設備も当然素晴らしいのですが、適度なコミュニケーションを生みつつ、プライバシーが守られたデザインが秀逸でした。あまりに開放的だと、働いている人も常に誰かの視線を感じてしまうものですが、にじの郷は、視界を適度に遮る「おこもり感」があり、利用者も働く人も、適度にプライバシーが守られているんです。

 

施設長の話に耳を傾ける参加者の皆さん

 

最新の機械浴を見学。介助する人にも配慮された最新設備を見学

 

また、引き継ぎ業務などにも最新のソフトウェアなどを用い、働く人たちの負担を減らして効率をアップする取り組みにも着手しているそう。シフトを工夫しながら、いかにスタッフの休日や休暇を確保しているかについても説明がありました。これから転職しようと考えている人にとっては「最重要」です。施設長から労働環境についての話があることで、ツアー参加者も比較できるようになりますね。

 

施設の玄関で野菜が売られている。この「ごちゃまぜ感」こそかしま荘

 

4箇所目は、いわき市鹿島の「かしま荘」です。今度はいわきで最も古いタイプの老人ホームの一つ。特徴は何と言っても「4人部屋」の居住スペースです。今の老人ホームのほとんどは「個室」ですが、個室タイプにはない、独特の「長屋」感。そこかしこに人の息遣いや笑い声が聞こえるので、孤独感は全くありません。「常磐炭鉱」があったいわきでは、むしろとてもしっくりくるスタイルなのかもしれません。

 

居室のなかの様子も見学していきます

 

施設の雰囲気、働いている人の表情、見るべきポイントはたくさんあります

 

伝統あるかしま荘の特徴は、かしま病院が運営する「医福連携」。同じ法人内に7つもの施設があり、人材育成のシステムが構築されているんです。基礎的な身体介助に始まり、よりコミュニケーション能力が求められる場所、マネジメントが求められる場所と、福祉の「キャリアアップ」を視界に捉えながら働くことができます。医療的な知識も学べるのも良さそうですね!

 

パライソごしきの入り口にあるコミュニティカフェ。老人ホームには思えません

 

さあ、最後の5箇所目が、いわき市鹿島の「パライソごしき」です。この施設の特徴は何と言っても、長くいわき市の結婚式やセレモニーを支えてきた、パレスいわやが運営母体になっていること。スタッフは皆、介護の前に「接遇研修」を受けるそうです。介護である以前に、接客・コミュニケーションである。これ、とても大事なポイントですよね。他の施設と一線を画する「秘訣」だと感じました。

 

どの老人ホームも「お風呂」に力を入れています。それが大事な楽しみだから

 

施設の各セクションが目標を書き出し、それを掲示。働く人たちの意欲が感じられました

 

ユニットは、ラスベガス、パリ、ハワイなどに分けられ、何処となく「非日常感」が感じられます。それでも浮ついているわけではありません。日常に根ざしつつ、気持ちをより上向きに、楽しく暮らしてもらいたい。人の幸せを演出する「いわや」らしさがにじみ出ていた気がします。その幸せは、もちろん「働く人」にも向けられています。働いている皆さん、楽しそうでした。

今回のツアーには、すでに施設で働いている人が少なくありません。同業者が見れば、その施設の労働環境がどうなっているのか、なんとなく想像できるというもの。皆さん、普段の仕事ぶりをそこはかとなくチェックしつつ、具体的な質問を交えつつ、様々に比較検討していました。人材が流動的になれば、福祉業界全体の活性化にもつながります。

 

参加された方のアンケート結果もまとまったので、ご紹介します。

ツアーに参加した動機は?
43% 介護施設の現場も見てみたい
21% 現在働いているところ以外の施設を見たい
21% その他
 7% 介護施設に限らず仕事を探していたので
7% 介護施設へ職場復帰したいと思っていた

 

満足度
90% 満足している
10% まあまあ満足している

 

ツアーへの意見、要望など
・介護施設での就労目的ではなく、施設の現場を確認のための参加でした。 各施設ごとに特徴があり工夫がされていたと思う。
・高齢化時代になり、就労のみならず、利用する家族のためにも、こうしたツアーを今後も切望する。
・介護をやっている様子、実際の仕事の風景を見たかった。
・入居を目的とする説明が多く、働く立場での仕事の説明が少なかった。
・仕事を探してない人にもこのような企画を考えてもらいたい。
・とても良かった。施設ごとに特徴がありとても参考になった。
・地域にある施設を見学でき、各施設ごとの特色や理念など知れてよかった。
・福祉職で働きたいと考えている目的からは具体性に欠け、どのような仕事に従事するのか理解が得られなかった。若い就労者を求めているように見えた。
・見たかった施設を巡ることができ、これからの就職活動に役立てたい。

 

アンケートが示すように、確かにもっと「仕事の現場」が見れてもよかったのかも知れません。純粋に施設を見学したいという人と、福祉の仕事に就きたいという人、転職したいという人では見るポイントも異なりますが、「実際に仕事をしているところ」は、誰が見ても収穫が多いはずだからです。

もちろん、こうした企画が社会から求められているのは確か。皆さんからの満足度も高く、今後、いわき市内で全体で企画していくような動きになるといいのかもしれません。今回は小名浜でしたが、常磐は常磐、勿来は勿来、同じ地区で複数の施設をめぐるツアーも面白そうです。

施設をめぐると、地域性や歴史、そこから見える風景も異なります。つまり、老人ホームを巡ることは立派な「街歩き」たり得る。そういう意味でも、施設同士が連携し、自分たちの施設を伝えようとすることが、地域の福祉力を高め、人材の流動性を高める大きなきっかけになるということでしょう。つながっていきましょう!

 


公開日:2019年01月16日