いわき市平にオープンした、社会包摂の拠点「あらたな」のなかに、この5月、ちょっと変わったスペースがオープンしました。生きにくさを抱える人たちの居場所づくり活動をしているNPO法人「明日飛(あすび)子ども自立の里」の事務所兼“居場所”です。
社会という荒波を前に、ちょっとだけ足踏みしている人たちが、いきなりガンガン面接を受けて仕事を始めるのではなく、川が「汽水域」を経て海に至るように、川と海の水が交わる場所、つまり家と社会の間にあるような「居場所」を作ろうというものです。
今年3月、内閣府が、ショッキングな調査結果を発表しました。自宅に半年以上閉じこもる「ひきこもり」状態の40~64歳が、全国で推計61万3千人いるいう調査結果です。その7割以上が男性で、ひきこもりの期間は7年以上が半数を占めました。15~39歳の推計54万1千人と合わせると、実に100万人以上の「ひきこもり」が存在し、その多くが高齢化・長期化しているのです。
こうした現状を受け、いわき市は独自に「みんなの居場所」事業をスタート。「ひきこもり」状態にある人たちの支援に乗り出しました。居場所づくりの運営に名乗りをあげたのが、若者たちの自立支援を行ってきた明日飛。これまで運営していた平南町の事務所に加え、新たに「あらたな」に入居。ここを居場所として運営し、ひきこもり状態にある人たちを支えようというわけです。
事務局の神永いつかさんに話を伺いました。
「メディア伝えられている “引きこもり” のイメージとは違って、力を発揮できる若者がたくさんいます。彼らの力を発揮するきっかけになるのが、社会との触れ合いです。触れ合いといっても、いきなり対話したり、というのではなく、いろいろな人たちと、ただ一緒にいるだけでいいんです。その意味で、多くの企業や団体が集まる “あらたな” は、居場所にぴったりの場所だと思います」。
あらたなには、障害のある人たちの自立をサポートしているNPO法人「ソーシャルデザインワークス」が運営する「SOCIALSQUARE Sports」が入居しており、居場所との連携が図れるほか、コミュニティ食堂「いつだれkitchen」もあり、週に1度は温かな食事と、多様な人たちとの交流が楽しめます。これまで社会のと接点がなかった人たちを支えるための環境があるわけです。
家から一歩も出なかった人たちが、明日飛の居場所を利用するようになり、自立支援事業所に引き継がれ、さらに就労、継続へと進んでいく。そんな道筋も描けます。もちろん、全然順調にいかなくても平気。ここなら気軽に集まれ、支えてくれる人たちも多くいます。大きな海原に出航するための準備を、じっくりと時間をかけてすることができそうです。
神永さんは、そうしたひきこもりの方たちを支援するのにもっとも大きな力は「地域の人たちが集まってくれること」だと言います。「家から出ることすら難しかった人たちなので、すぐに社会に出て働くというのはハードルが高いと思います。必要なのは、多くの人たちと触れ合うこと。そのなかで、ぼくにはこれができそう、わたしはこれが好きかもと、次につながる何かが見つかるんです。この場所には、福祉の専門ではない、いろいろな人たちに来て欲しいですね」。
明日飛は、生きにくさを抱える若者たちを理解するための様々なイベント、セミナーなども企画していきたいとのこと。6月3日には、若者のカウンセリングで活用されているメソッド「ナラティヴ・アプローチ」の講師、浅野衣子さんの講演会も企画されています。
ナラティヴ・アプローチというのは、相手の心の中にある「物語」を語ってもらうことで、自身を支配していた物語を自ら発見し、さらに新しい世界を見出すことで、その人を縛っていた古い物語を更新しようというもの。
人は、知らず知らずのうちに、うまくいかないのはこれに原因があり、きっとこれからもうまくいかないと勝手に「物語」を作ってしまうものです。実はその物語が、行動に干渉し、自分を縛ってしまう。だからその物語を引き出し、新たな物語を見出していくことで、結果的に、最初に問題とされたものが解消に向かう。ナラティブ・アプローチには、そんな力があります。
引きこもりだけではもちろんなく、子ども、友人、親、同僚、いろいろな困難さをほぐしていく対話ができたら、私たち自身の生きにくさも、少しずつ解消されていくかもしれません。どうぞ、6月3日は、このナラティヴ・アプローチのセミナーに足を運びつつ、あなたの身近にいるかもしれない「社会に出たくても、その一歩が踏み出せない人たち」のことを考えてみて下さい。
ナラティヴ・アプローチ勉強会
日時:2019年6月3日(月)13:00〜16:30
会場:いわきラトブ 企画展示ホール
講師:浅野衣子さん (株)キャリア開発サポーターズ代表取締役
費用:無料
申し込み:メール、FAXで「名前、参加人数、連絡先、住所」を伝える
問い合わせ:NPO法人「明日飛子ども自立の里」
TEL:0246ー68ー7915
FAX:0246ー68ー8200
メール zimu@asubi.jp
担当 清水、神永、日下
公開日:2019年05月31日