社会を「ミント」なコンディションに

あろうとコラム vol.2


 

いごく的福祉=あろうと。様々な生きにくさがあろうと、困難や喪失があろうと、その人らしく生きるには。あろうとコラム第2回は、中央台にある「激しくヤバい印刷工房」を大潜入取材!

 

あろうとコラム vol.2 社会を「ミント」なコンディションに

 

中央台の住宅地のなかに、激しくヤバい印刷工房がある。行ってみないか?

信頼できる情報屋から、そんなタレコミがあった。そこには何やらいわきでもかなり珍しい印刷機械があり、垂れ幕やポスターを、気軽に印刷できるらしいのだ。

なにぃぃ? 印刷屋ぁぁぁ? そこ、ホントにおもせーのげ!? いごく編集部にも印刷屋の経営者がいだような気ぃすっけど、ベづに印刷屋なんてどごだっておんなじじゃねえのげ!?

疑問は湧く。しかし、この情報屋から、いごく編集部はいくつもの特ダネをゲットしてきた。好間の北二区の活動、白水町の川平集会所の話、みんなこの情報屋からのネタだ。ヤツの提案は信頼できる。うむ、行かねばなるまい。

ということで、中央台にある某所へ、私たちは取材へ向かった。

 

黙々と何かに取り組むみなさん

 

工房へ入ると、おや? 印刷屋っぽくはない。ガチャガチャ音がするわけでも、インクの匂いがするわけでもない。そこにいる人たちは、思い思いに、何かを切ったり貼ったり、いじったり、何かを読んだりしている。いわき市中央台。認定NPO法人いわき自立生活センターが運営する、就労継続支援B型事業所「ミント」である。

なんだよ、印刷屋じゃねえじゃん!

と思ったが、その傍らで、パソコンに向かって黙々と作業を続ける人を見つけた。

 

作業所の端っこで黙々と何かを入力する男性、印刷屋の社長か!

 

飲食店のチラシを作っておられた社長

 

明らかに周囲の雰囲気と違う。的確にタイピングしながら、コツコツとフライヤーやチラシをレイアウトしている。間違いない。この方が間違いなく印刷会社の社長だ!!

社長に言葉をかけてみると、少しおしゃべりは苦手のようで、ちょっと恥じらいながら、企業や個人から、名刺、チラシ、各種バナー、イベント用の垂れ幕などの制作依頼を受けつけ、こちらで印刷して納品するのだと説明してくれた。規模は小さいが、立派な印刷屋さんだ。

 

ミントが誇る大型プリンタ。これでガンガン印刷して納品しているっ!

 

メインの印刷機がこちら↑↑。キヤノンの大型印刷機である。長尺ものの印刷ができるだけでなく、A1サイズのポスターなども美しく印刷できる。うお、これって印刷屋とか写真スタジオとかにしか置いてねえヤツじゃん、と編集部のテンションが上がる。

何十枚も印刷しなくていいけど、2、3枚、大きく印刷したものが欲しいというニーズは結構あるらしい。例えば、講演イベントの演題を書く垂れ幕、お店に貼る広告用のポスターなど。画像をゼロから作ることもできるし、お客側で画像を作ったものを印刷するだけでいいというオーダーもできる。

気になる人は、ぜひ一発連絡して欲しい。

 

施設の中に掲示されたミントのバナーも「自社生産」。クオリティも高いです

 

-仕事きっちり洗濯工房へ

デザイナーの仕事ぶりに目を奪われていたら、奥の方からブザーが聞こえてきた。隣の部屋を覗き込むと、洗い終わった大量のタオルを乾燥機に移し入れるところだった。おおお、こちらは洗濯工房ではないか。印刷工房と洗濯工房が隣り合うオフィスなんてそうそうないぜ。すげえな、ここは。

 

印刷工房の奥は洗濯場。大量のタオルを洗濯していた

 

タオルの山から発注の多さがうかがい知れる

 

コインランドリーに置いてあるような洗濯機と乾燥機が置かれており、洗濯職人たちが黙々と作業をしている。仕事ぶりは完璧だ。この日は編集部がカメラを持ち込んで撮影しているので、時折、ポーズを決めてくれたり無駄話も出てきたりするけれど、きっちりと仕事をこなしていく。

 

ミントのアイドルがスーパーモデルばりにポーズを決めてくれたぜ!

 

乾燥が終わると、たたみ方開始! さっきまで思い思いに作業していたスタッフたちが大きなテーブルのそばにやってきて、乾燥したばかりのタオルを次々にたたんでいく。手際よく真剣にたたむ人もいれば、時間がかかる人もいるけれど、仕事はバッチリである。タオルたたみ職人たちの息はバラバラなのにぴったりだ!

最後は、タオルとりまとめ職人が手際よく決まった枚数ごとにビニール紐でまとめていく。洗濯と乾燥、納品までの手際の良さが評価され、いろいろな宿泊施設などからの依頼が入ってくるという。このタオルの山こそ、ここに多くの注文が集まっているなによりの証拠だ。

 

さりげなく大胆にカメラの視覚に入ってくるアイドル!

 

みんなでたたむ。シンプルな仕事だけに根気が要る!

 

細やかな「せってぃんぐ」できれいに美しく仕上げる!

 

洗濯から畳み方、タオルの取りまとめまで、仕事きっちり!!

 

印刷と洗濯。それがこの「ミント」のメイン事業だ。

ミントは、就労継続支援B型事業所にカテゴライズされる。「就労継続支援B型」というのは、一般企業への就職が困難な障害がある人たちに就労機会を提供し、生産活動を通じて、知識や能力の向上に必要な訓練などのサービスを行うことを目的としている。スタッフには報酬も支払われている。

現在は「認定NPO法人いわき自立生活センター」の所属となっているけれど、もともとは障害のある子どもたちの親たちが立ち上げた小さな作業所から始まったそうだ。特別支援学校や養護学校を卒業すると、障害のある子たちは、仕事も打ち込むべきこともなくなってしまい社会から切り離されてしまう。

そこで、ママたちが自分たちの得意な洗濯、クリーニングを事業にしようと一念発起。なんと「国家資格」を取って作業所を立ち上げたそうだ。クリーニングの「洗剤」から着想を得て、それで「ミント」という名前に決まったらしい。小さな事業所にも、だれかの思いがあるものだなあ。そしてその思いは、現在の職員にも、そしてスタッフたちにも引き継がれている。

 

洗濯工房の壁に掲示された免許証。立ち上げ当時の当時の思いが、脈々と受け継がれている

 

このミントには、障害のある人たちが働くために、働くための技術を身につけるために通ってくる。洗濯事業を担当するスタッフも、先ほどの印刷会社の「社長」もそうだ。障害や困難があろうと関係ない。自分の力を生かして「働きたい」と思っている。そういう誰かの「働きたい」という思いに応えるための支援の場が、この「ミント」というわけだ。

いや、もしかしたら、中には、働いていると自覚してない人もいるかもしれない。なんとなく楽しいことをしていたら、結果として仕事になっているというような。いずれにしても、ここでは「自分らしくあること」と「仕事」がゆるやかにつながり、新しい価値を生み出しているように思えた。

その価値を、さらに社会に広げていくために、人知れず「いい仕事」をしている人たちに普段の仕事の一部でも依頼できたらいいなと感じた。全部発注しろってわけじゃない。みんなが10分の1ずつでいい。そうやってうまいこと社会が回っていったら、色々な人たちが自分らしくいられる社会に近づくという気がする。それはきっと「わたしも(あなたも)」活躍できる社会だ。

 

プラスチック部品取り外し職人の女性。「得意」が「仕事」になるってすばらしい

 

シンプルな仕事を、リズムよく。工房の雰囲気はすこぶるいい

 

事業所の「ミント」は、洗剤のミントの香りに由来するとさっき書いた。実は英語の「mint」には、もうひとつ意味がある。英語の「mint-condition」という言葉には、「作りたての、真新しい、新品同様、極美品」という意味がある。なるほどミントという言葉は、クリーニングにも、印刷にも、そして社会にも当てはまる気がする。

社会を、よりミントなコンディションに。

ミントの活動に、いや、ミントだけでなく、いわきじゅうの支援事業所に、今までよりももう少し目を向けてみようと思う。

 

文・小松理虔(いごく編集部)

 

information

就労継続支援B型事業所 ミント
所在地:福島県いわき市中央台高久2丁目26-4
(​障がい者地域生活支援施設ぐんぐん内)
電 話:0246-84-9620
種 類:就労継続支援B型
運 営:認定NPO法人いわき自立生活センター

 

 


公開日:2020年03月11日