いごく的福祉=あろうと。様々な生きにくさがあろうと、困難や喪失があろうと、その人らしく生きるには。あろうとコラム第3回は、いごくのバーチャルユーチューバーいごくんが「ウエス」を巡って旅をしました。
あろうとコラム vol.3 いわきウエス紀行
「ウエス! オラいごくん!」
あれえ、おっかしいなあ、いつもは「オス!」って言ってんだけどなあ、なんでだろう。じゃあもう1回だ! 行くぞ!
ウエス! オラいごくん!
なんでだ! どうしても「ウエス」になっちまう。ま、いっか! 今日から挨拶は「ウエス!」だ。オラと会ったら、元気に「ウエス!」って挨拶してくれよな!
みんなは、ウエスって、知ってっか? オラも全然詳しくなかったんだけど、こないだいわき市が発行してるパンフレットを見てたら、とある施設のサービス内容に「ウエス・製造販売」って書いてあったんだよ。あんれぇ? なんだ、ウエスって。オラよりつええ敵かもしれねえし、新しい技かもしれねえ。じっちゃんやクリリンにも聞いてみたんだけど、だぁれも知らねえんだ。
それから「ウエス」のことが気になって気になって仕方がねえ。精神と時の部屋で修行してても、頭から離れねえんだ。それで、そのパンフレットに書いてある電話番号に電話して、思い切って取材に行ってみたってわけさ。今日は、その時の模様をレポートすっかんな!
ここは、小名浜にある「ワークショップあいあい」。小名浜の本町通りを小名川のほうまで行ったところにある。こんなところにウエス道場があるなんて、オラ知らなかったぞ。立派なビルだ。オラよりつええヤツがいそうだな。ワクワクすっぞ。
中に入ってみると、細長い作業所にそれぞれ作業の島ができてて、布をカットしたり、カットした布をまとめていたり、少し奥のほうでは、襟やボタンをハサミでひとつひとつ取り除いていたり、それぞれが真剣に仕事をしてる。オラもやりてえ、修行してえ!
そうしたら、なんだよ、目の前の男の人が教えてくれたんだけど、ウエスってのは、この布のことなんだって。オラ、新しい技の名前とか、気合いの入れ方だと思ってたぞ。
いやあ、この布が「ウエス」っていうのか。いやぁぁ、勉強になるなあ。きっと界王さまも知らねえことだぞ。
-あなたの知らないウエスの世界
よし、オラがおめえにも教えてやっかんな。
ウエスってのは、工場などで汚れた機械を掃除するのに使う布のこと。機械を使う工場とか、自動車の整備工場とか、オイルとか汚れを拭き取ったりするのに使うらしい。特に中古のウエスは、新品に比べて水分や油分の吸収力に優れてて、むちゃくちゃ人気なんだそうだ。
ワークショップあいあいは、この「工業用ウエス」を製造販売している法人だ。だいたい20人くれえの人たちが毎日ここに通って、こつこつとウエスを作ってるらしい。それから、オラたちが行った日には、商業施設で子どもの遊び場として使われるボールプールの「ボール」の洗浄なんかもやってたな。色々な仕事の依頼があるみてえだ。
さてウエスだ。これをどうやって作るかっていうと、古着の回収をしている法人団体から届いた大量の古着を仕分けする。そして、襟の部分やボタンを丁寧に取り除いて(手作業でだ!)、そして使いやすい大きさにカットする。さらに、カットされた布を、決められた量でまとめて、出荷する。
見てくれ、この裁断機。ウエスを作る専用の機械だ。ものすげえ高いらしいけど、多様な人たちに仕事を作りたい、みんなで働ける場所を作りたいっていうことで、助成金を活用したり、民間団体や個人からの寄付で導入したそうだ。年季が入ってる機械もあるけど、それだけ信頼され、愛されてるってことだな。
天気がいい日は、こうやって外で仕分けもする。
うっひゃあ、青空の下で気持ちいいぞ。本町通りに面してるからロケーションもいい。通りすがった人たちがこっちを見ていったり、何してんのかなって覗きこんでいったり。普通、障害のある人たちの施設っていうと、少し山のほうとか、住宅地のはずれにある大きな施設をイメージするけど、まちなかにあるのが自然だよな。こうして地域の社会のなかで、そこに居る。そこに居て、仕事をしてるんだって、いろんな人に見てもらえる。それがいいな。
それにしても、すげえいい雰囲気だ。オラがいつも必死で修行してるからかもしれねえけど、ゆったりとした空気が流れてる。働くって、本来こういうものじゃねえかなって、オラは思ったよな。
でもな、実際にはそんなまったりでもねえ。代表の豊田節子さんって人に見せてもらったんだけど、すんげえぞ、注文の数が。見せてもらったら、いわき市内のいろいろな工場が、毎月何十キロってウエスをここから買ってるんだって。あいあいのウエス、人気なんだな。
今でこそ、こうして注文が入るようになったけんど、豊田さんが事務所を開いた頃は大変だったみてえだ。1軒1軒工場を訪ね歩いて、趣旨や思いを説明して、そこに共鳴してくれた人から少しずつ注文が入るようになった。注文が入れば、みんなに仕事を手渡せる。働く楽しさとか、喜びみてええなものを、みんなでシェアできるってわけだ。
たった1枚の布かもしれねえけど、すげえ思いが込められてんだな。
-ウエスをめぐる旅へ
いやあ、ウエス道場、楽しかったぞ。オラ、でももっと、ウエスのことが知りてえ。オラ、現場で使われてるウエスがみてみてえ、写真にも撮ってみてえ。
そしたら、豊田さんが紹介してくれたんだ。実際に、あいあいからウエスが納品されてる工場にアポを取ってくれたんだ。うっひゃああ、最高だな。
ってことで行ってみたのは小名浜にある福島トヨペットだ。あいあいから筋斗雲で1分くれえのところにある。オラ、昔、いごくの仕事する前に別の仕事してたんだけど、その時の社用車が福島トヨペットからのリースで、ちょくちょく修理や車検にきてたぞ、いやあ、懐かしいなあ。
行ってみたら、わざわざ店長が出迎えてくれて、そして整備工場を見せてもらった。
うっわぁ〜、かっけえぞ。むちゃくちゃかっけえ。自動車整備工場って、なんか心をくすぐるよな。
目を凝らして工場の中を見ていくと、、、あった! あったぞ! 作業してるスタッフが、ウエスを持った手で、なんだかよくわからねえ部品をつかんでる! そして、オイルを拭いたぞ!!! これか、これだったか!
オラ、感動したぞ。あの大量の古着が、ああやって1枚のウエスになって、実際にこうして大活躍して、自動車整備工場を支えてんだもんな。みんなが真剣に作ったウエスが、だれかの車の安全の、小さいけど、大事なひとかけらを作ってる。感動したぞ。
整備工場の整備マンに聞いたら、紙のウエスもあるけど、古着の布製が一番いいらしい。綿が多いほうが水分の吸い込みがいい。白いと汚れがわかりやすいから交換のタイミングも見えやすい、ってことで、白い布ウエスを重点的に「あいあい」から仕入れてるんだって。
店長に聞いたら、今まで「障害のある人たちの施設から買っている」ことは知らなかったみてえだ。普通に、品質で買ってたって。それもつええな。
みんな聞いてくれ。
オラは今までウエスを知らなかったけど、こうして確認してみて、ウエスってけっこういろんなところで使われてるんだなってわかった。いわきは製造業の町だからな。毎日何十枚って使うところもあるよな。その一部だけでも、こうしてさ、福祉施設で作られてるものに切り替えて、ちょっとでもいいから実際に使ってみたらいいんじゃねえかな。
食べ物も、どういう農家が作っってっか、顔を思い浮かべると、いつもよりうまく感じるのと同じでさ、身の回りのもの、大したことのないものだって、作り手の顔が思い浮かぶ方がぜってえいい。大した額じゃなくてもいいんだ。何百円でも、自分が購入した先に、だれかの喜びがある。働くことすらままならなかった人たちの存在がある。そういう想像力を持った消費が、実は一番大事で、一番つええのかもしれねえ。
あいあいのみんな、サンキューな。また、遊びにくっかんな!
文・小松 理虔(いごく編集部)
information
ワークショップあいあい
所在地:福島県いわき市小名浜下町8
電 話:0246-52-2522
種 類:就労継続支援B型
運 営:特定非営利活動法人ワークショップあいあい
公開日:2020年03月25日