「看取り士」たちから学んだもの

映画「みとりし」上映会


 

これまで遠い未来のこととして捉えられていた「死」。昨今の新型コロナウイルス感染症の拡大により、死を身近なものとして感じるようになった人も多いのではないだろうか。死との距離が縮まりつつある今、いわき市でも、改めて死についてどのように向き合っていくかを考えてもらいたいと、死について考えてもらう、さまざまな機会が作られている。

 

−広がる看取りへの関心

いわき市では死と向き合うことを通じて、今、そしてこれからをどう生きるかを考える機会をつくろうと、9月23日、映画「みとりし」の上映会を開催した。この上映会は、死をタブー視することなく、これからの生き方について考える機会や情報を発信してきた地域包括ケア推進課と、日本看取り士会看取りステーションふくしまが主催を務め、上映会の他に、終活に関する相談や情報提供を行う「終活相談ブース」も設けられた。

上映された映画「みとりし」は、旅立つ人、送る人を支え、命のバトンをつなぐ「看取り士」たちの姿を伝えようと、2019年に制作された映画である。公開された翌年に開催された映画祭「JAPAN Film Festival Los Angeles 2020」の特別賞を受賞するなど、海外からの評価も高い作品だ。「一般社団法人日本看取り士会」の代表理事を務める柴田久美子さんの実践・提案から始まった看取り士という仕事を知ってほしいという声が多数寄せられ、現在も自主上映会が全国各地で行われている。

 

映画「みとりし」の上映にあたり、主催を務める氏家さんから挨拶がありました。

 

いわき芸術文化交流館アリオスの小劇場で行われたいわきでの上映会は、一回目二回目ともに満員。親子連れで参加された方も多く、上映会を機に、「死」について、これからの未来について一緒に考えたいと思っている人が多いことや、「看取り士」や「看取り」に対する市民の関心の高さがうかがえた。日本看取り士会看取りステーションふくしまの所長を務める氏家美千代さんのメッセージが終わると、いよいよ上映がはじまった。

 

−看取りから生まれるきっかけ

映画では、看取り士になろうと思ったきっかけ・想い、さまざまな看取りのシーンが描かれた。映画には、二人の看取り士が登場するが、どちらの看取り士も、身近な人を亡くした経験が看取り士の仕事を目指すきっかけになっていた。仕事を通じて、目の前の本人と家族に向き合いながら、自分が経験した身近な人の死への向き合い方・捉え方を変容させていく二人の看取り士たち。看取りが、現在進行形で死と向き合う当事者家族だけでなく、過去に体験した身近な人の死を改めて捉える機会になる。看取り士を目指すという選択肢以外にも、看取りに関わる人を増やすことで、死に対してなんらかのひっかかりを抱える人が一歩前に進むきっかけになるのかもしれないと、主人公の変容を見ながら感じていた。

病院に戻らず家で過ごしたいと願う80歳の女性とその願いを支える家族、離れた場所に住んでいるため親の介護が難しく看取りをお願いする息子、乳がんの再発と転移が見つかり、余命宣告を受けた3人の子どもを持つ母親。描かれた看取りのシーンは、どれもわたしたちに起こりうる日常そのもので、本人や家族が抱える不安・葛藤・恐れは、死に向き合う「リアル」だった。看取り士は、こうした看取りに関わるさまざまな人の思いを汲み取りながら、臨終を迎える前、瞬間、その後をサポートしていく。

 

「親父の子どもでよかった」「看取り士さんがいてくれてよかった」

遺された家族が発した言葉をひとつひとつ受け取るその姿は、「看取り士」ではなく、「もうひとりの家族」のようにみえた。命のバトンを受け渡す難しさと尊さ、看取り士のやりがい、自分の家族が「その時」を迎えるときに自分はどうありたいのか。上映会が終わり参加者の表情を見ると、いろんな感情や考えが渦巻いている様子がみてとれた。

 

本人と家族に寄り添う看取り士の「あり方」をあらわした文。

 

上映会の直後、親子で参加していたお母さんと高校生の娘さんに感想を伺うことができた。二人とも、乳がんを患った母親と子どもそれぞれに自分を重ねて映画をみていたという。「これまで、死について考えてきたことはあまりなかったが、自分のためにも家族のためにも一緒に考える時間をつくっていきたい」と語ってくれた。この上映会が、参加者の次の一歩に繋がっていると実感した。

 

−シュウカツを考える

映画の上映会にあわせて、「終活相談コーナー」も開かれた。

 

一般社団法人日本看取り士会では、看取りの心構えや看取り作法の伝授に加え、残りの人生をどのように過ごしたいかをまとめる「エンディングノート」の活用も薦めている。これまでの人生を振り返り、最期まで自分らしい人生を歩むための準備をする「終活」。会場内に併設された終活相談コーナーで、終活アドバイザーとして終活に取り組む市民をサポートしていたファイナンシャルプランナーの飯田教郎さんと佐藤幸子さんに、人生や死に向き合う機会をつくる上で大切なことは何かを伺った。

お二人によると、2009年に週刊朝日で終活についての連載が組まれたのをきっかけに、終活という言葉が一気に市民に広まったという。認知は広まったものの、行動にうつすまでハードルが高いと感じている人は多い。

飯田さんは、次のように語る。「終活に取り組むにあたり、これからの人生をよりよく生きるという目的をもって取り組んでほしいと思っています。終末期医療や遺産整理など『家族のため』に行う終活ももちろん大切ですが、自分がやりたかったことを見つける『自分のため』に行う終活も同様に大切です。自分にとっての目標が見つかると、人生を前向きに生きていこうと気持ちも変化しますしね。」

 

ブースには、いわき市独自のエンディングノートも。

 

中には、家族に迷惑をかけたくないからと、つい自分のことを後回しにしがちな人もいるだろう。しかし、それでは自分がどう生きていきたいかという肝心な問いに向き合えていない。「自分がどう生きていきたいか」という問いに、みんなで向き合っていくには。そのヒントになるのが、一緒に考えるというさきほどの親子の言葉だ。

よく考えてみると、わたしたちも就活をするときに、これから自分がどう生きていきたいかを考えて会社を選んだりこれからのキャリアを考えたりしている。終活と就活で向き合う問いは、非常に似ているのだ。例えば「シュウカツ」をアップデートさせることで、さまざまな世代がこれからの人生、ひいては死を考える機会になるかもしれない。

 

−ただ、寄り添う

今回の上映会を通じて、人生や死について考える大切さを改めて学んだが、それと同時に日常で考えていく難しさも実感した。なぜなら、自分の人生に向き合うことには常に不安や恐れがつきまとうからだ。だからこそ、何かのきっかけで人生に向き合っている目の前の人に、まずは寄り添う姿勢が重要なのではないかと思う。そばにいて、小さな悩みや不安を受け止めてくれた、あの「看取り士」のように。それが、地域で人生や死について考える最初の一歩になるはずだ。

 


公開日:2022年11月11日