つどいの場に男たちを集めよ!


つどいの場をいくつも取材していると思うことがある。それは、つどいの場にやってくる人のほとんどが女性だということだ。旦那さんはもう天国に行っちまってるのかもしれない。でも話を聞くと、どうやらそうでもない。男性は、こうした地域のつどいに、そんなに顔を出したがらない生き物なのだそうだ。だから「いかに男性に参加してもらうか」は、つどいの場を運営するうえで、いつも課題として存在してきた。

お父さんたちの多くは、仕事を引退すると、仕事上のつきあいがゼロになってしまう。しかも、何十年も仕事に打ち込んで来たから、地域とのつながりはお母さんほど分厚くない。仕事を引退した途端、疎外感を過剰に感じてしまい、なかなか外のコミュニティに足が向かない人が少なくないのだそうだ。

これは、なにもつどいの場だけに見られる兆候ではなく、例えば阪神淡路大震災や、東日本大震災後の仮設住宅などにもよく見られる現象だったという。男性の高齢者のほうが、コミュニティに溶け込めずに、孤独を抱え込んでしまいがちなのだ。

みんな仲良し、荷路夫の父ちゃんたち。

つどいの場には、もともと女性が多い。女性しかいないつどいの場に、男性が1人だけ参加するというのは精神的にもプレッシャーだろう。だから、何人かまとめて参加してもらえれば、男性だけのグループができ、居心地もよくなる。男性陣に参加してもらえるようなレクリエーションを考えたり、母ちゃんたちが何とかして父ちゃんのお尻をはたいて来てもらったり、それぞれのつどいの場で、試行錯誤が続いている。

男性の参加率がもっとも高いのは、田人の荷路夫集会所のつどいの場だ。ここは3分の1が男性である。これ、本当に、本当にすごいことなのだ。住宅地のつどいの場だと参加者全員が女性というパターンも多い。逆に、山間地区は農業などに関わって来た人も多い。それだけ地域の結びつきが強く、つどいに参加するための心理的なハードルが低いということでもあるのだろう。

とにかく荷路夫の皆さんは仲がいい。仲がいいから、つどいの場のレクリエーションもテンポがよく、効果も高くなる。仲がいいから楽しい、楽しいから健康講座の効果が高い、結果的に健康で長寿な人が増える、という好循環が生まれる。それが自然にできている。それがこの地区のすごさ。

この日のレクリエーションは認知症予防の座学。みなさん真剣に先生の話に耳を傾けつつ、チェック用紙を満たしていく。

なんで荷路夫は男性の参加率が高いのか。母ちゃんたちに聞くと、「あだしらがみんな美人だからだ」なんつって冗談を(いや事実です)言って教えてくれた。それに加え、男性同士がお互いに誘い合って来ることが大きいのだそうだ。1回来てしまえば、あとは続くことが多いから、最初の1回目を、みんなでまとまって参加しちゃう、その導線をどう作るかということなのだろう。美人講師でも、お酒を飲むでも。

あとは、お母さんたちが引っ張り出して来てくれるのも大事。話を聞くと「父ちゃん初めは来たがらなかったけど、来なっつってあだしが引っ張って来たんだぁ」と教えてくれたお母さんもいた。上からの押しつけじゃなく、そこに暮らす皆さんのボトムアップによってつどいの場が成立しているということを改めて確認できた言葉だった。

ちなみに、内郷にある集会所では、なんと「夜のつどいの場」があるそうで、参加者全員が男性なんだという。男性を呼び込むコンテンツがあれば、男性は集まってくれるということだ(内郷にはこんど取材に行くつもり)。男性の孤独を防ぐための「つどいの場」。これはむしろ住宅地や都市部のほうが求められていることなのかもしれない。

こちらは三和の下三坂のつどいの場の様子。お茶目な父ちゃんたちがいると、会場がなんとも賑やかになるのだ。

老人会などが比較的強く機能している山間地域に比べ、いわき市内の住宅地や市街地エリアでは、ご近所の付き合いも最低限で、隣組なども昔ほど機能していない。親戚付き合いも希薄になり、まさに都市部と同じような状態になっている。

それに伴って独居老人の数も年々増えている。東京のような都会は若者が「孤独を楽しむ」場所には良いけれど、自分の年齢がどんどん高くなり、体の自由が利かなくなってなお「孤独を楽しむ」ということは難しくなってくる。しかもいわきなんて、どこも本当には都会じゃない。みんなが少しずつのりしろを作って、支え合っていかないと地域が成り立たない。

都市部の人たちが、いずれ中山間地域の真似をする時代が来る。その意味で、荷路夫は未来を行っているということになる。つまり「地域包括ケアの先進地区」なのだ。昔と変わらないはずの地域の絆。でもそれが実は一番新しい。何とも不思議な話ではないか。そういう逆転が起きるからこそ田舎は面白いし、楽しいのだし、そういう瞬間に立ち会えることが、つどいの場の魅力なのだ。


公開日:2017年09月18日