7時半開店。まずは店先に飾られた書画の解説だ。これは誰から頂いたもの、これは昭和何年ごろのなになに、あの人はどんな人で、どんなご縁があった。実に詳細に、そしてヴィヴィッドに語ってくれる。「いやあ、本当にいろんな人に世話になったなぁ」とポツリ。
そうだ。この店に飾られているもの、もしかしたらここで作られるものも、清次さんと誰かの「縁」が作り上げてきたものなのだ。「震災の後、本当はお店を再開する気はなかったんだけど、また柏餅が食べたいって声があって。この店舗も、自分で探したんじゃなくて、知り合いのツテで使ってみねえかって声をかけられたもんなんだ」と清次さん。自分の作るお菓子の話を先にするんじゃなく、お世話になった誰かの話をしてくださる。これが片寄清次という人なのだろう。
店の中も見させてもらいたいとお願いすると、「なんだぁ、NHKだって入れだこどねえんだがんな」と忠告一発。でも快く厨房のなかに入れてもらえた。店の中の機械はどれも年季が入り、ちょうど人の手が当たるところだけ磨耗してツルツルになっている。商売人でもあるが、それ以前に、道具を大事にする職人であるということが窺い知れた。そして、背筋が伸びるような気持ちになった。
「柏餅は本当は機械に全部任せても作れんだ。でもやっぱり人の手で確認しないとダメだ。温度とか湿度で出来栄え変わってきっちまうがら。だから捏ねるところは人任せにしないで今でもおれがやるときもある。でもまあ今はもう信頼できる職人がいっからな。任せてやってもらってることの方が多いな。だからおれはそんなにやっこどはねえんだ(笑)」。
そういって最高の笑顔で笑ってくれても、ちゃんと店のことを見渡している。だから職人からの信頼も厚い。働いている人たちも、皆楽しそうだ。
「なんでこんな歳まで働くかって、やっぱり仕事が楽しいがらな。それに楽しんでやらねえと、何事も長続きしねえ。地域のこともそう。やらされでやってたら楽しくない。楽しいなって笑顔があるから、地域の人とのつながりも生まれんだ。楽しいがらやる。そうでないと何事もダメなんだ。んだっぺ?」