NPOによる保証人代行という挑戦

NPO地域福祉ネットワークいわき 新妻登さん


 

 

 

アパートに入りたいときや福祉施設に入りたいときにはどうしても「保証人」というものが必要になります。身寄りのない方、身寄りがいてもいろいろな事情がある方などはここで困ってしまうわけです。そういった方々のために、世の中には保証会社というものがあります。簡単に言うとお金を払って保証人になってもらうサービスです。

 

実はいわき市には全国的にも珍しい、NPO法人による保証人サービスがあります。またこのNPOでは、将来の自分の葬式や墓について生前に契約できるよう、葬祭事業者や墓地管理者と仲介するという支援も行っています。先進的な取り組みの現場はいまどうなっているのでしょうか。NPO法人地域福祉ネットワークいわきの新妻登さんにお話を伺いました。

(文・写真/江尻浩二郎)

 

 

 

 

はっきりと調べたわけではありませんが、うちのようなNPO法人が保証人サービスを行っているというのはやはり珍しいと思います。理由のひとつはまず料金。うちは利用料が月500円なんですよ。1年間で6,000円ですよね。100人の方と契約しても60万円ですから、民間ではとてもできないと思うんです。

 

民間での利用料金は少なくとも月5,000円とか、一番最初に数十万円とかですよね。当然そういう金額になってきます。お金がない人は頼めません。

 

この事業を正式に立ち上げる前にモデルケースとして何件かやってみました。本格的に始めたのは令和元年度で、軌道に乗り始めたのが2年度。2年度の活動を見直して今の3年度になっています。2年度の4月は担当が2人だったんですが、10月から3人体制になって、今も3人でやっています。

 

この法人は、もともとは地域包括支援センター、その後は障がい者相談支援事業をいわき市から受託してきました。そういう支援の中で、例えばアパートに入りたいんだとか、施設に入りたいんだとか、亡くなった時どうしようかという問題に今までずっと関わってきたわけです。それらをなんとかしようということでスタートしたのがこの事業です。お金がある人は民間の会社でいいでしょうが、生活保護の方なども含めて、お金のない人たちはどうすればいいのかということです。

 

令和2年度は相談件数が200件を超えました。契約件数でも160件を超えています。令和3年度に入っていま上半期が終わったところですが、月10件ぐらいのペースで契約しています。それだけ必要としている人たちが多いということです。

 

緊急時の対応もしなければいけないので基本的にはいわき市内の方のご利用ということになります。市外の契約も1件ありますが、それはもともといわきの人が市外の施設を利用したいというケースです。市外がどうしてもだめというわけではないんですが、やはり遠ければ緊急時の対応ができないわけですね。それは了解してもらわなければならない。ちなみに住民票は関係ないです。例えばこちらに来て生活している双葉郡の方はあちらに住所があるわけですが、いわき市でアパートを借りたいという場合はそれでもOKです。

 

市営住宅は、去年の4月からNPO法人の身元保証でOKになりました。それまでは法人ではダメだったんです。個人でやってくださいと。また今年度から市が補助金をつけてくれました。

 

 

 

統計的にきちっと出しているわけではないですが生活保護世帯との契約も非常に多いです。市営住宅は、今は身元引受人ではなく緊急連絡人になりました。身元引受人だったのは令和元年度までかな。これは何が違うかというと、家賃の滞納分について責任を負わなくてよくなったんです。

 

あとは精神障がいのある方たちが退院する、アパートを見つける、しかし家族や親族が緊急連絡人になりたくないというケースもあります。そうすると本人や地区保健福祉センターなどの関係機関とも話して、チームを組むような感じで退院に向けて動いていくということもあります。そんなわけで、地区保健福祉センター、地域包括支援センター、障がい関係、そしてケアマネージャー、病院、あとはあまりないけれども民生委員の方とか、そのへんからの相談が来ます。またはパンフレットを見て直接来る人もいますね。

 

 

 

 

支援内容もかなり多岐にわたるわけですが、ただ、私たちの身元保証は「丸抱え」をするということではありません。ここは強調しておきたい。高齢者や障がい者には主たる支援者がいます。例えば包括(地域包括支援センター)の人とか、障がい(いわき障がい者相談支援センター)の方とか、事業所とか。その中で例えばアパートを借りる時に保証人になる人がいないということで私たちに相談が来ると。生活面で何か問題があったとしても、私たちはそこまでやりきれない。役割を分担して、生活支援は主たる支援機関がやって行く。身元保証が必要だったら私たちが出て行く。もし金銭管理がうまくいかないならそういう機関もある。そうやってそれぞれの役割でタッグを組んで支援していくということ。これからもその形で進まなければいけません。

 

うちには「入居」「入所」ともうひとつ「葬送等」支援というのがあります。ある方の事例で、体調が悪くなってきて「葬式どうする?」って話をして、こうしてああしてって、埋葬のお寺さんとかの話もしたんですが、その2日後ぐらいに亡くなられたんですね。その時に、もしなにも決めてないうちにいかれたらどうなってたんだろうと思いましてね。それからはかなり早い時期に、下手すると第1回の面談の時から「お葬式どうしますか?」って聞くようにしています。

 

その流れで言うとお葬式の前に「延命治療をどうしますか?」という話も聞きます。私たちが聞いたからといって法的な意味を持つわけではないんですが、一応確認したということで記録に残しておく。そして次にお葬式の話も聞く。これは本当に個人個人で事情が違いますね。お寺がある人もいればない人もいる。葬式はやんなくてもいいんだっていう人もいる。他県にお寺があるということでそちらとやり取りしたり、やっぱりそっちには入れたくないということで同じ宗旨の市内のお寺を紹介したり。私たちは自分で葬儀をするわけではないので葬儀屋さんとかお寺さんとの橋渡しをするということになりますが、それが「葬送等」支援ということです。葬儀屋さんもいろんな葬儀屋さんがありますしね。

 

埋葬の話をすると、市営墓地には今3つのタイプがあります。最初からみんなと一緒に埋葬されるのが45,000円かな。個人として納骨堂に何十年か預かってもらうのが90,000円。樹木葬だと120,000円くらい。令和2年度は8名の方の手続きをさせていただきました。今年度は2名です。

 

お葬式をどうやるかということと、どこに埋葬されるかということがある程度決まると、やはりみなさんほっとするんじゃないでしょうか。身寄りがない場合、自分の骨を自分で拾うわけにはいかないですから。

 

 

 

これを言うと私たちの事業範囲を超えてしまうんですが、やっぱりそれまで生きてきた場所の人間関係とか、地域包括支援センターとか、障がい者相談支援センターとか、地区保健福祉センターとかと、これからどうやって関わっていけばいいのかということを考えますね。親族と最後までいい関係でいられるかというのはもう私達の葬送等支援の問題ではない。昔だと隣組とかでやってくれたけど、そういうのはなくなってきた。そこに戻ることがいいのかどうかも分からないけれども、寂しいなとは思います。

 

それに関連しますが、いま、いわき市の「安心ノート(エンディングノート)」の書き方の講習会をやろうという話は出てきています。ただし今はコロナでなかなか開催が難しいですね。

 

厳密に言うといろいろあるんでしょうけれども、私たちが身元保証で葬送支援をやっていく中で、例えば延命治療についてこう聞いてましたと伝えることはできます。ですから「どうしましょうか」という話は一応させていただく。もしかしたらそういう状態になったときに遠い親戚が現れるかもしれない、そういう時にこうだったんだと伝えることはできる。またそれをやっておかないとお医者さんも困るんですね。いざという時に全然答えられないよりは、我々が聞いておいた方がいい。例えば少しでも長生きできるようにしてほしいと言う人もいるし、いやもうただ痛みだけ取ってくれという人もいるでしょう。

 

そこで出てくるのが公正証書です。遺言を作るお手伝いもします。私たちの法人がある、ここ「いわき市社会福祉センター」の4階が公証役場ですから、そこと相談しながら本人の話を聞いて、公証人の方が雛形を作りますんで、これでいいですかって確認して、よければそれで作ります。あと一つは延命治療との関係で尊厳死宣言公正証書というのがあります。これもある程度雛形がある。延命治療はしなくてもいいとか、ただし痛みは取ってくださいとかいうことを書いておくことができる。そうすることによって関係者が罰せられることを防ぐこともできます。下手したら自殺幇助になってしまいますからね。そういうものを作るお手伝いもさせていただいてます。

 

 

 

組織の話になりますが、私らだけがやるんじゃなくて、この趣旨に賛同していただいている社会福祉法人とか、NPO法人とか、株式会社とかで、身元保証の協議会というものを令和2年度からスタートさせています。いま30団体ぐらいに参加していただいてますね。特養(特別養護老人ホーム)の方とか、葬祭業者さん、医療法人など、この事業が必要だと思っていただいてる方々の協議会です。

 

もうスタートして3年目ですから、大変だからといってもやめるわけにもいきません。長く続けるためには法人とか、葬祭業者さんとか、お寺さんとか、いろんな方に少しずつ賛同していただいて、いくらかでも財源が確保できればと思います。

 

これからは、いわきでも隣に誰が住んでるのか分からないというようなことになっていくでしょう。このような事業もますます必要とされてくるだろうと思います。その反面、本当にそれでいいのかなという気もする。これはこれとしてやっていかなくちゃいけないけれども、地域の中の支え合いをどうやって作っていくのか。これがもう一つの課題なのかなと思っています。

 

更なる少子化で色々な問題が出てきた時に今のままで済むのかなと。こういう事業がありますよということではなくて、そもそものつながりをどうするのかということを考えて、そこで弱い部分はきちんと補完できるようになってるんだよと、そういうことなんだと思います。

 

そのような問題意識を持っている人は多いと思いますが、話だけ聞いてそうだよなあと思っていても動かなければなにも進んで行かない。いま目の前の入居・入所・葬送等支援をしていながら、これ自体は当然やらなきゃいけないことのひとつだけれど、その先のことも考えながら、つながりながらやって行くということが大事なんだと思っています。

 

 

 

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公開日:2021年10月11日

新妻 登(にいつま・のぼる)

NPO地域福祉ネットワークいわき事務局
入居・入所・葬送等支援担当
社会福祉士