ーー死んだ後にもやらなければいけないことはある。ただ困ったことに自分はもういない。お金もかかりそうだし誰かの手も必要だ。合同会社「いしはら葬斎」がプロデュースするのは家族葬などの規模の小さな葬儀。身寄りのない方や金銭的余裕がない方の葬儀も数多く手がけている。最近増えているのが直葬だそうだ。通夜や告別式を行わず直接火葬で弔う葬儀のことだが「それで充分ですよ」と石原きみ子さん。紙のいごく10号に登場していただいた葬儀社「いしはら葬斎」のお仕事について改めてお話を伺った。
(文・写真/江尻 浩二郎)
きみ子さん:
そもそもこの仕事をしたきっかけは、いわきじゃないんですけどニュースで死体遺棄の話があって。お金がないっていう理由で、亡くなった奥さんのご遺体を庭に埋めてしまったダンナさんが逮捕されたんだけど、なんで今のこの世の中に死体遺棄なんだろうって、すごく思って。
お金がなくたって棺ひとつ頼める葬儀屋さんがないのかなって。ちゃんと式をやらなきゃならない何しなきゃいけないということじゃなくて、最低限火葬するのに必要なこと、棺と骨箱だけでも頼める葬儀屋さんって存在しないのかなって。そう思ったのがきっかけ。だったら自分たちでやるかと。ま、私のほうがやるって思っちゃったのが始まりで。
だからいわきでは、もう絶対にそういう死体遺棄なんて事件が起きないようにしようって。私たちは数ある葬儀屋の中でも「棺ひとつでも気軽に頼める葬儀屋」になろうねって。それが出発点です。
うちのひとがまだ勤めてたんですけど。あれよあれよで私が勝手に準備をし始めて、大体方向性が決まったときに、それをうちの人が見てて、本当にやるんだなと。じゃあオレ仕事やめなきゃダメかと。だから私が言いだしっぺで、うちの人はレールに乗せられた感じ。
もともと同じ葬斎場に勤めてたんですけど、私は結婚と同時にやめて、そのあとは別な仕事してて。ただ(葬儀の)仕事の様子はずっと見たり聞いたりしてたから。
自分が葬儀の仕事してた時も、死んだ人に対して怖いっては思わなかったんですよ。それは最初からそう。だから仕事の話聞いててもふーんって。たいへんな死に方の人もいますけど、そういう話聞いてもふーんって。別に何の抵抗もなく。
だんだん形にしていく中でうちの人が、そんな安くてどうすんだ、少しは儲けなきゃって具体的な数字を出してくるんですけど、でもやっぱり限度ってあるじゃない。棺ひとつにしたっていくらで売るのかって。そんなにとれないでしょって。せいぜいこれくらいなんじゃないかって。そんな話から何回衝突したか。私は儲けっていうことはあんまり考えたくなかったんですよ。ご飯が食べていける、普通に生活していけるだけもらえればいいって。
今になって私たちの仕事を薄利多売だって言う人がいるけど、でもちゃんとやってきたよねって。ちゃんと伝えて、ちゃんと仕事させてもらって、ちゃんと生活してるんだから、別に薄利多売だっていいじゃない、みたいな。そういうふうに落ち着いてんですけど。
立ち上げたのは平成22年。震災前。22年の2月1日だね。それが「いわき葬斎」としてのはじめ。その「いわき葬斎」っていう名前も、いわきで一番の葬儀屋にしようねって。その後いろいろあって今年の3月からは「いしはら葬斎」って名前なんですけども。
その立ち上げの年の7月に初めて生活保護世帯の火葬のみっていう仕事をやったの。その方にはご兄弟が一人いたんですけど、亡くなってたの見つけて、警察の人が入っていてっていう。それで、生活保護の仕事ってあるんだなあって。普通の極々一般的な仕事しか経験してなかったから、生活保護の仕事ってなんとなくいいなあって。
それで市役所の保護係に行ったら見積もり出してくださいって。名前も知らない私たちにもいろいろ親切に教えてくれて。ただ皆さんの税金だからそんな高い金額はお支払いできないですよって。それで見積もり出して、それから仕事もらえるようになって。
立ち上げの2月からその7月までの間は全然仕事なかったんです。私は夜のアルバイトやったりして。そんな頃に助けてもらったのが保護の仕事だから、これから先何があっても、保護の仕事だけは絶対やり続けようと。それで今もやらせてもらっている状況です。
お金がない状態でスタートしたし、だから場所もどこでやろうって話になったら、ここ、母の実家、私のばあちゃんちだったから、ここだったらやれるねって。ちょうど「いわき清苑」(★1)が新しく出来るときで、そこのスペースを借りて式もできるし。
でも本当に保護の仕事をやらせてもらったから色んなの見せてもらって勉強になった。私たちも本当に生き方考えなきゃなって。本当にありがたかった。普通の葬儀の仕事してても絶対に感じないこと。勉強になった。
葬儀の仕事自体は30年ぐらいになるかな。うちの人は以前は福祉関係だったんですよ。特養(★2)の生活相談員だったんですけど。最初仕事がなかったとかで、葬儀の仕事やってて、そのうち福祉の仕事もあるだろうってことだったんですけど、結局ずっとはまっちゃったみたいで。で、介護保険っていう制度ができてから、これではもうついていけないと。
うちの人はもともと郡山の方にいたんですよね。それで離婚して、いわきに流れてきて。それでいわきの特養に勤めてて、そこをやめて、葬儀の世界に入って、そこで私と出会って、再婚同士なんですけど、私と結婚したばかりにこんな事になっちゃって。
いわき市は自宅の孤独死が多いです。孤独死だと検視がある。警察は毎日あるといってます。1日1件とはかぎらないですし。すごい数なんじゃないでしょうか。
心肺停止の状態で救急車に乗って、それで病院で死亡が確認されても警察が検視します。それで死亡原因が分からないとなったら医大(★3)で解剖。それでも分からなくて死亡原因が「不詳」って場合もあるの。
医大まで連れて行ったんだったらなんかつけて返してほしいよね。心筋梗塞とか。遺族の人も病名がもらえると安心するというかホッとするし。心臓だったんだね、しょうがないね、急だったんだもんね、とか。「不詳」では解剖までされて何だったんだと。包帯だらけになって帰ってきてね、それで「不詳」ではね。
孤独死の場合、早ければ2日ぐらいで見つかるのね。お年寄りで福祉といろいろ関わりがある方、そういう方だと早く見つかる。週に2回とか3回とかまわってくる人がいますから。関わってない方だと1年以上とか。あとはお年寄りでもなくて、勤めてなくて、近所付き合いもなくて、みたいな場合も遅くなります。
こないだ1年以上経って白骨で見つかった人だって親戚はすぐ近くにいたの。だから物理的距離でもないのね。1年ということは盆と正月の付き合いもないというか、一切何もつきあいがないということだね。
一人で暮らして誰も身内がいないとかだと福祉関係が関わってきますね。だから本当に一人っていうことはない。必ずどこかで誰かが弔ってくれる。病院で亡くなっても誰もいないってなると福祉の方で関わるようになるから、だからどこでどう死んでも大丈夫だよね。
死ぬまでは本当に一人でできると思う。どんな死に方でも、自分の思い通り。悔いのないように死ねると思う。でもその後だよね、本当にね。一人じゃできない。死ぬとこまでは自分の人生を生きてもいいけど身体は残る。そこが厄介だよね。物体があるって言うのがね。
引き取り手がいる人は国民健康保険で葬祭費5万円を請求できます。火葬して、残りは葬儀代にしてもらって、なんとかやりくりということになっちゃうけど、余裕をもって10万円くらい現金があると、まあ、いいですね。
よく老後の不安で何千万みたいな話があるけど、本当に必要なのは10万円ぐらいのお金で、決して余計には要らないもんね。本当に日々生活できる金額があればね。年金で生活してれば十分だし。下手にお金残さないほうがみんな丸く収まっていいのかも。お父ちゃんさようならで終われると思う。
私たちはいまは火葬だけだね。直葬(★4)っていって。葬儀もやりたいんですけど、コロナの影響で「いわき清苑」の方で今できない状態。だからお亡くなりになった方を火葬までお預かりしてっていう。
うちは5,000円でも1万円でもいいもんね。分割でもいいし。お金かけないでやろうと思えばいくらでもできるんですよ。死体遺棄なんて考えなくてもどうにかなるんだよね。そういうことを知ってほしいと思う。
葬儀って何十万も何百万もするんだよ、じゃなくて、極端な話、いわき市だったら1万円(★5)だけ用意してもらえれば火葬できる。国民健康保険に入ってればそこから5万円もらえますから、本当に火葬だけでよければ4万円残るわけだから、それを葬儀代に充ててもらって、あとはもう分割でもなんでもいいんです。
いまはネットで買える棺もあるじゃないですか。そういう時代だから棺一本に5万だ10万だってかけたくない人もいます。こういうこというと大手に怒られるだろうけど、ネットで売ってる時点で相場がばれちゃってますもんね。
お坊さんでもありましたよ。別に宗派は問わないし、お墓もないし、ただお経だけあげてほしいっていうことで、安いお坊さん紹介したんです。そしたらそのお坊さんを蹴って、ネットで見つけた別のお坊さんを連れていきますって。そっちの方が安いと。そういう時代なんですよ。
自分たちが死んだときは献体(★6)に行くことにしてるから全然お金なんて。生活できてればいいかなという感じで。県立医大にちゃんと納骨堂がありますから、そこに納まります。だからお墓の心配もないし、そこでどうしても駄目だったら知り合いのお寺さんにお願いするつもりでいる。だから本当にお金はないです。
献体は申し込みで、私らが申し込んだのは結婚してすぐ。20年前。たまたまあっち方面に行く機会があって、医大見たことなかったから、ふと思って、献体の申し込み書もらって。でもあんまり遠くには移動できないんです。医大に連れてってもらわなきゃいけない都合があるから。福島県内にはとにかくいないと。
献体の申し込みは本当に増えたらしいです。震災とかもあってから一気に増えたって。これ(下段写真)が送られてくるんです。『志らぎく』っていう、献体の会の冊子。学生の感想文とかもあって。これどうぞ持って行って読んで下さい。『眉山』っていう映画もそうだったよね。献体の話だった。私たちもゆくゆくはそうなんのかと思いながら。
病気でないとダメみたいですね。あんまり事故とかなんとかの場合は引き取らないケースもあるとかで。私たち、いかにお金をかけないかということで考えて入会したんだよね。お葬式も無駄だしということで。献体いいよねっていって。
とにかく、どこでどう死んでも大丈夫ってのは間違いない。どこでどんな死に方しようがうちはOKだから。最終的にはみんな同じよっていう。骨壺の大きさが違うわけでもないし。それまでの人生はいろいろあるだろうけども。
死んだ人はどんな死に方した人でもいい顔してる。病院で死のうが孤独死だろうが。やっぱり生きてるのって大変なのかなぁ。本当にそれは不思議に思う。自殺の人なんてそれこそ思い悩んでなんだろうけど、死んだ顔はすごく穏やかなんだよね。だから悔しい時もあります。身内の方がいても関係ないんだなんて言われちゃって。こんないい顔してんだから最後ぐらい見てやってよって思う。
まあ生きてるってのは年齢に関係なく大変なんでしょうね。私たちも、早く終わりたいなぁと思う今日この頃です、本当に。
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★1 いわき市の公営火葬・葬儀場
★2 特別養護老人ホーム
★3 福島県立医科大学
★4 通夜や告別式を行わず、自宅や病院から直接ご遺体を火葬場に運び、火葬によって弔う葬儀
★5 いわき市民の場合、大人( 12歳以上)、1体、10,000円
★6 教育・研究に役立たせるため、死後に自分の肉体を大学病院の解剖学教室などに提供すること
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家族葬・直葬
合同会社いしはら葬斎
TEL:0246-36-4101
FAX:0246-84-7988
公開日:2021年10月21日
合同会社いしはら葬斎
棺ひとつでも頼める葬儀屋をモットーに、石原充(いしはら・みつる)さん、石原きみ子(いしはら・きみこ)さんのご夫婦で経営。「どこでどんな死に方しても大丈夫、最後にはわたしたちがいますから」と胸を張る。