生活を、命を、そして死をつなぐ訪問看護師


 

座談会メンバー紹介(写真左から)
所長の佐藤幸夫さん、宇佐美さん(訪問看護師)、佐藤さん(訪問看護師)、浄土さん(作業療法士)、川崎さん(理学療法士)

 

病院や施設だけでなく、慣れ親しんだ土地や、慣れ親しんだ家でも最期の瞬間を迎えられるようにしたいよね、というのが地域包括ケアの目指すところ。それを実現するためには、医療や介護などのサービスを「自宅で」受けられるようにしなければなりません。

その鍵を握るのは、訪問看護師。医師の指示により、在宅で療養している方を訪問して、体調に変わりがないか、適切に回復しているか、困りごとはないかなどをみたり、理学療法士や作業療法士のアドバイスを受けながらリハビリしたり、注射や点滴などの医療処置まで手がけてしまう、在宅医療の「マルチプレイヤー」です。

とても重要な仕事なので、いわきでもじわじわっと増えているそうなのですが、そんな大変な仕事、よく自分から望んでやるよなあ、すごいなあ、どんな人が、どんな思いでやっているのかなあ、と疑問ばかり。ということで、いわき市草木台にある「いわき訪問看護リハビリステーション」で、超絶ザクっとお話を聞いてきました。

 

午後6時。忙しい合間を縫って取材に応じてくださいました

 

編集部:皆さん、今日はお集まり頂きありがとうございました。ここに来る前に、訪問看護について調べたりしていたのですが、病院勤めの看護師さんでも大変なのに、よく訪問看護のほうに移って来られたなと思っていました。しかもみなさん揃ってお若いときている。なんでまたこちらの世界に来られたのですか? まずはそこからお願いします。

浄土さん:私は作業療法士で、リハビリの担当なのですが、生活の場でお手伝いしたいなと思ってこちらにやってきました。というのも、患者さんが退院されると、自宅で過ごす時間のほうが圧倒的に長いので、現実の生活の場でリハビリを行っていくことが、とても大事だと思うからです。せっかく病院で長いことリハビリをしていても、退院すると続かなかったりして、あの練習やリハビリはなんだったんだって葛藤することもありました。

川﨑さん:そう、葛藤ありますよね。僕も理学療法士としてリハビリを担当しています。病院で、ここは危ないですよ、できないときはこうするといいですよとアドバイスしたのに、その方の自宅を訪問してみると全然できていないなんてことがよくあって。病院ではいろいろな役割の人たちが同じ職場にいますが、在宅の場合は、みなさん所属先もバラバラ。だから連携を取らないと機能しないんですが、そういうネットワークづくりも面白いところかもしれません。

 

理学療法士の川﨑さん。病院での葛藤から、訪問看護の世界にやってきました

 

宇佐美さん:私は、最初は病院に就職したんですが、そのあとショートステイの施設に入って、その次にここに来ました。所長が看護学校の同級生で、訪問看護の仕事は楽しいって言われて。実際に働き出したら、やっぱり楽しいですね。病院時代はすごく忙しくて業務に追われてしまって、患者さんと話す時間もほとんどなかったけど、今は、みっちり関わることができます。それってすごく贅沢なことだと思います。

佐藤さん:私はここに入って3年目になるんですけども、看護師はもう20年になります。病院の新人の時に、まだ20年前なので訪問診療や訪問看護が充実していない時期でしたが、自宅に帰したいという家族がいて、だったら週に1回、先生と様子を見に言ってみよう、お前は新人だから先生についていけって言われて。自宅に伺ってみると、ご本人だけじゃなくご家族の介護の負担も大きいことが良くわかりました。そういうところは、入退院を繰り返してしまったりすることもあります。所長から声をかけられて訪問看護の世界にきましたが、20年前の経験がもしかするといまに繋がってるのかもしれませんね。

編集部:なるほど、みなさん、やっぱり病院時代に在宅での介入の必要性をどこかで感じていらっしゃったわけですね。いま、このステーションの利用者はどのくらいいるんですか?

所長:いま、うちの利用者で130名くらいいらっしゃいます。遠いところだと北は広野、南は田人もいます。連絡があればすぐいきますよ。当番の時は市内から出られません。ケータイが鳴るたびにビクビクしちゃいます。いわき市内には、うちのようなステーションが17くらいあるでしょうか。病院と連携しているところもありますが、うちは単独なので、すべて病院から依頼があって、先生から指示をもらって利用者さんのところに伺う形です。スタッフは私も含めて看護師が8名、リハビリ担当が2名。これで動かしています。

 

笑顔の絶えない所長。スタッフから愛され、信頼されていることが伺えました

 

編集部:大変ですね・・・・。当番の日は駆けつけないといけないし、やるべきこともたくさんある。みなさんはどこをモチベーションに仕事してらっしゃるんですか?

所長:まず経営のところからいうと、できるだけ給与の面でもモチベーション高めてもらいたいと思っています。たとえば70時間訪問行った人と、90時間訪問行った人と同じだったら面白くないですよね。だから訪問の時間に応じて手当を増やす形にしていて、訪問を100時間くらいやると基本給に10万円くらい上乗せされます。そういう部分でもモチベーションが必要かなと思って。でも、みんなに話を聞くと、実はお金は二の次だったりして、チームが団結して一人の患者さんに向き合ったり、同じ方向を向いて仕事をしていくことにやる気を見出してくれているように思いますね。

宇佐美さん:働き方も大きいですね。私は子供がまだ小さいので、9時から夕方の4時まで働いていて、子供に合わせてお休みも貰っています。本当にありがたいですし、車も預けてもらっているので、保育園に子どもを送ったら、そのまま直行で患者さんのところに行けて家に直帰できます。1回外に出たら基本は行きっぱなしで何軒も回りますし。だから仕事のオンオフの切り替えってすごく大事だなと感じます。

編集部:1軒あたり、どのくらい診察されるんですか?

佐藤さん:30分から1時間くらいですかね。長い方だと1時間から2時間くらい。それで多い時には5軒くらい回ります。たとえば障害のある子どもたちをみているお母さんたちのところは、少し長めに時間を取っています。障害や難病のある子たちの場合、家で人工呼吸器をつけて親が介護しているところが少なくありません。みなさん本当に一生懸命やってらっしゃいます。だからこそ私たちがお手伝いに入った1時間だけでもリラックスできたらいいし、悩みも相談してほしい。うまく活用してくれたらいいなと思っています。

 

看護とリハビリを統括する佐藤さん。優しい笑顔でお話くださいました

 

所長:チームワークも求められます。看護師も、リハビリの先生たちから色々と教えて貰ってリハビリも在宅でやるのですが、一人の利用者さんのために、どうしたらいいかをみんなで考えなければいけません。この、スタッフ同士でのコミュニケーションは、病院にはないものかもしれませんね。とにかく密だし、チームワークが求められるので。

宇佐美さん:そうやってチームで頑張って、利用者さんが何かをできるようになったり、状態が改善したりすると、本当に嬉しいです。なんっていうか、その人に対するオーダーメイドのケアができている、それが達成されたわけですから。

浄土さん:リハビリのモチベーションもそこですね。たとえば、退院しても寝たきりで、動けなくなってしまうと認知力も低下してしまいます。でも、そこに私たちがチームで介入して、起き上がれる、寝返りが打てる、着替えの介護も楽になる、座ってご飯食べられるとか、そういう変化がわかるのがいいですよね。そのうえで、ご本人だけでなく、ご家族からもありがとうと言葉をかけてもらえる。本当に嬉しいです。

川崎さん:そう。リハビリの結果が伴えば家族も信頼してくれるし、成功体験が信頼に繋がって、自分たちの自信や実績につながってやりがいになっていくんです。

 

ママ看護師として大活躍中の宇佐美さんは職場の働き方も重視

 

所長:皆さん、前提が「人のためになりたい」と思ってこの業界にくるので、最初からモチベーションが高いんですよ。人を採用する時にどこを見るかって「私たちがなんとかしてやるんだ」って思い。その思いを共感できたらほぼ採用ですよね。今日集まってくれた4人は目を合わせるだけでわかりました。即採用でしたね(笑)

編集部:看護師を目指すだけでも、だれかの助けになりたいというホスピタリティがあるわけじゃないですか。そこからさらに訪問を選んでくるわけですし、皆さんほんとうに高い志を持ってらっしゃるんだと思います。あとはやっぱり人が好きな人じゃないと続けられないかもしれませんね。

佐藤さん:そうですね、私も人が好きです。人が好きじゃないと看取りが難しいかもしれません。そうないと本音を聞き出せない。利用者さんだけじゃなく、家族からも信頼を得て、最期にはどうしたいのかってことを聞きださないといけないわけですから。そのタイミングが難しいし、信頼関係がないと看取りの話はできませんし。

編集部:あああ、そうですね、看取り。家族ですら大変なわけですし。それを、赤の他人の訪問看護師の皆さんが向き合ってる。本来は、それは家族で決めておかないといけないのかもしれませんね。訪問看護師さんの負担も減らすためにも。

佐藤さん:でも、先生から余命を宣告されたら、やっぱり長生きして欲しいって思いが勝ってしまうんですよ。自分の口から死について切り出すのは、ご家族は難しい。家族だって医師からいきなり余命はこのくらいって言われるわけですから。それを家族が受け入れる時間も必要ですよね。本人のケアだけでなく、家族のケアもしなければいけないんです。

 

ステーション最年少の浄土さん。作業療法士として在宅リハビリに尽力する

 

編集部:家族のケアまでやるんですね。これから多死社会になると言われているわけで、でも医師の数は足りない。訪問看護師の皆さんの重要性はますます増していきますよね。今よりもっとたくさんのことをしなければいけなくなる、かもしれない。

宇佐美さん:そうですね、でも今は、色々なツールができて助けてくれるんです。私は「私をつなぐノート」にすごく助けられています。家族もわかりやすいし、何を書き残せばいいのかを知ってもらえる。看取りをするときにはそういうのを活用して、それをきっかけに話題を広げていくことも多いです。ああいうツールがあると、ほんとうに助かりますね。

所長:在宅医療で、利用者さんと一番触れ合う時間が多いのは訪問看護師です。ケアプランを考えるのはケアマネさんですが、その方が人生をどう閉じていくのかのマネジメントは、訪問看護師の仕事かもしれませんね。先生たちよりも私たちの方が関わっているわけで、利用者さんが本音を言えるのも、私たち訪問看護師なんです。

佐藤さん:利用者ご本人が話ができるのであれば、人生の最期をどう迎えたいかって直接話をしますし、話せなくなってしまったら、ご家族はどう考えているのかをベースにして、家族が亡くなってしまったあとも、後悔なく「これはこれでよかったのかもしれない」って思ってもらえるようなかたちにできたらいいですよね。

 

看取りの話を明るく笑顔でできる。こういう方たちだからこそ、寄り添えるのかもしれません

 

所長:これは個人の実感でしかありませんが、在宅で後悔したって方、ほとんどいないんです。残された家族も、本人の意思に沿ってここまでできたんだって、悲しみではなく感動になっていく方が多いように感じています。私たちも頑張ったし、おじいちゃんおばあちゃんも頑張ったって。そうやって感動で終われたら最高ですよね。

佐藤さん:病院を知ってるから思うんですけど、在宅の場合は、余命宣告よりも長生きする方がほんとうに多いです。家に帰ると、亡くなるとは思えないくらい1度元気が出て気力が湧いてくるんです。目に力出てきますから。やっぱり、病院の白い天井を見ながら、ではなく、生活し慣れた自宅の方がゆとりが出てくるんだと思います。ほんと、在宅ってすごいと思いますよ。

所長:その方の人生は終わるけれど、見取りを通じて家族の絆が戻ってくる。だからすべてが悲しいというわけではない。ご本人もご家族も、納得して最期を迎える。そういう人生の手伝いができるっていうことは、ほんと、訪問看護師冥利に尽きますね。

編集部:家族の死を、悲しみではなく、家族の絆にできるってすごいですね。でも、それが死の本来の姿もかもしれません。そうやって命というか、思いが受け継がれていく。だから死は、喪失でもあるけれど、何かを受け渡すものなのかもしれません。いやあ、皆さんのように思いを持って医療に関わっている方の存在を知れて、なんかすごく安心できました。今日はありがとうございました。

一同:ありがとうございました!

(座談会、おわり)


公開日:2019年03月12日