楽しむことからすべてがはじまる(仮)


 

文章・小田 篤史(ロクディム)

 

老いや病、死というテーマを、楽しみながら触れてみる体験。ふざけるのでも、ネタにするのでもなく、楽しむことから始まる。僕が見た「いごくフェス」にはたくさんの笑顔があった。

老いや病、死は、いつか来ることはわかってるけど、できる限り遠ざけて、見ないようにしてきた問題だった。実際、老いのこと・看取りのことを、実家に住む両親や妻と直接話したことはこれまでなかった。考えてはいても、言い出せなかったというのが正直なところだ。老いも、病気も、看取りも、終わりに向かうイメージがあって、どんな反応が帰ってくるのか怖かったのだと思う。

今回僕は、これまで出演してきたロクディムの「ナカフェス」のステージ出演の他にも、様々な形でいごくフェスに触れることができた。

ロクディムとして出演した「いごくステージ」。ソトフェスでの「スナック極彩色」のママ。そして「いごくフェス総集編」のリポーター。それぞれ違う角度と距離から見た2日間には、人の温もり「温度」があったように思う。

 

スナック極彩色では「ママ」として来場客をもてなした小田さん

他者を許容していく温かさ

1日目の「ソトフェス」。「ソトフェス」会場の一角に屋台を置いて作られた「スナック極彩色」。初めての企画でドキドキしながら、ロクディムの名古屋淳と共にスナックのママ役を担当した。

僕たちは来てくれた人達と輪になって『想定外を楽しむ』ことについて話しをした。自分と相手は違うこと。違うからこそ、その違いを楽しむことでお互いが活きていくこと。そんな話をさせてもらった。

途中、食べ物の差し入れをいただいたり、ふらっと立ち寄る人がいたり。まさにスナックのような状況がフェスの中にできていたのかもしれない。参加してくれた人たちはみんな別々の場所から来た人達で、仕事も様々。だからこそ、その違いを楽しむうちに「他者を許容していく」温かさが生まれていった気がする。

僕たちの番が終わっても、お客さんがスナックに残って話しを続ける『想定外』の展開が生まれたのも嬉しい出来事だった。スナックの出番が終わった後は、いごくフェス総集編映像のリポーターとなることで参加する側の視点を感じることができた。

リポートをしていて、特に印象に残ったことが2つあった。その一つが、2日目に中劇場ホワイエで行われていた「入棺体験コーナー」での出来事だ。

初日にはなかった、2人で入ることができるダブルサイズの棺に、お孫さんと入ったおばあちゃんが呟いた言葉。今でも心に残っている。

「私にとっては、そんなに先の話じゃないだろうからね」

少し寂しそうに、なんとも言えない表情で言った言葉。僕はそのおばあちゃんにうまく言葉を返すことができなかった。実際に入館体験をしてみれば、誰でも看取られる最後の瞬間をイメージすることはできると思う。だけど僕は、その体験を「いつかくる未来の出来事」くらいに思っていたのかもしれない。

現実の「明日起こるかもしれない出来事」としてではなく。残された時間の感覚は人それぞれ違うし、年齢によって感じ方も変わる。こうして一緒に体験を共有させてもらうことで、死を一緒に考える難しさを知るきっかけになった。

 

来場者それぞれが自分の距離感で死や生と向き合ったいごくフェス

自分の人生は、自分が主役

もう1つ、リポーターとして関わる中で印象に残ったことがある。VR看取り体験会で、「看取り」についてグループごとで話をする様子だ。前向きに、素直に、時に楽しみながら、自分の看取りへの考えや価値観をみんなで話していく。そこには、人の「体温」が伝わる素敵な空間が広がっていた。

実際に看取りをするロールプレイでは、笑いが起こったりして楽しそうにみんなが参加していた。深刻になったり、暗くなるのではない、看取りへのポジティブな取り組み。前向きに楽しく看取りを考える。看取りについて考えることが、どう生きるのかを一緒に考えていくきっかけにもなっていく。生きることの背中を押されるような体験だった。

各コーナーをリポーターとして見た後に出演したのが、いごくフェスの最後を飾る「いごくステージ」。僕はロクディムとして、今回で3回目の出演になる。

1回目、2回目のいごくフェスで同じステージに立たせてもらったケーシー高峰師匠。ケーシー高峰師匠の映像から始まったステージのオープニング。『生きていく』だけでなく『老いること』も芸人として魅せてくれた師匠。その生き様に会場のみんなが拍手を送る。

「どう生きるか?どんな最後を迎えるのか?自分で選んでいい」

映像を見ながら、僕はそんなことを感じていた。

生きることと共に、老いや病、看取りといった「今あるものを受け入れ、前向きに楽しみながら未来に向かって進んでいく」。いごくフェスでの体験を振り返ると、ロクディムがやってきた即興芝居と重なるものがたくさんあったように思う。人生の最後の最後まで、自分がどう生きるのか? どう生きたいのか?自 分が選んでいいのだと思う。自分の人生は、自分が主役なのだから。

ステージを見終わった人たちから「久しぶりにこんなに笑ったわ~」という言葉が聞こえてきた。そんな風に笑って楽しむ体験が、生いきることや、老い、看取りについて考えるきっかけに繋がっていく。それが僕が見た「いごくフェス2019」だ。

楽しむことから始まる。自分はどうしたいのか? 相手はどうしたいのか? 家族はどうしたいのか?

楽しいという体験が、生きること、死ぬことに向き合うきっかけになる。まずこの「いごくフェス」の出来事を奥さんや、実家の親に話してみよう。楽しかったこの2日間の話しをすることから始めてみよう。そこから始めてみようと思う。

 

小田 篤史(おだ・あつし)
1979年千葉県柏市生まれ。1998年から即興芝居、マスクインプロ(仮面を使った即興演技)、台本演技を今井純に学ぶ。俳優として台本のある舞台や映像作品でも活動中。数多くの即興芝居のライブを経験し、MCとしての経験も多数。講師としても、一般の方を対象とした即興演技ワークショップを行っている。2012年、第一子を死産で亡くした経験から、ブログ『僕は天使パパになった』をスタートさせ、自身の経験談を交えながら【命について】考える表現活動を展開中。


公開日:2019年09月24日