ラジオCD第6集! 遂に完成しました!

県営下神白団地「ラジオ下神白」


 

いわき市小名浜にある災害公営住宅「下神白団地」で、そこに暮らす人たちの声を音楽とともに残そう、そんなプロジェクトが始まっています。その名も「ラジオ下神白」。現在、美術家のアサダワタルさん、映像作家の小森はるかさんらが関わり、定期的にラジオ風番組の収録が行われています。

団地に暮らす人たちの多くは高齢者。その高齢者への取材や聞き取り、作家と高齢者がともに繰り広げていく番組収録、番組を収録したCDの配布に至るまで。プロジェクトのなかに、高齢者の暮らしと記憶をつなぐ「コミュニティ」について考える、多くのヒントが見つかりました。

そこで「いごく」では、この「ラジオ下神白」の担い手たちと連携。現場での思いや、プロジェクトを通じて得られたものを書き綴る連載エッセイを掲載していくことになりました。今回は第2回目。コーディネーターとして関わる鈴木詩織さんからの寄稿です。

 


 

下神白通信 vol.2
ラジオCD第6集! 遂に完成しました!

文:鈴木詩織(しおちゃん)

 

「この声俺か?」「何だか変な感じだな」ぶっきらぼうに話すが口元が緩んでいる。照れつつも喜びを隠せないその表情を見るとこちらも自然に頬がゆるむ。一人ひとりの人生にスポットがあたり、他者の人生と聞き手の人生とが結び合う事ができる。それがラジオ下神白。

この活動を通して出来たラジオ風CDは3年で5作品。計14名の方々の人生とその人生に寄り添ってきた音楽達が収録されている。そして令和元年9月、ついに第6集目の作品が完成し新たに3名の住民の方の人生の一部がCDという形になり発信された。

 

ラジオ第6集CD、CDジャケット

 

CDの同封作業は毎回団地住民の方に手伝って頂いている

 

CDが完成し、まずは今回参加してくださった3名の住民宅を訪れジャケットの似顔絵と内容の確認をしていただく。これが住民の方への初お披露目だ。CDを取り出し住民の方へ見せる瞬間、CDをデッキにセットし流す瞬間、緊張なのか喜んで頂けるかと不安なのか非常にドキドキする瞬間だ。

今回取材した中のお一人、90代の男性Tさん。CDデッキから流れてきた声を聴いた瞬間「この声俺か?」驚きながらも照れた表情を見せる。自分の似顔が書かれているCDジャケットを握りしめながら自分の語りに耳を傾け、頷いたり笑ったり。時には自分の語りから「この美空ひばりの裏町酒場は良い曲なんだ。昔仕事で色んな地を訪れた時いつも口ずさんでいたんだ」と昔を思い出しながら、懐かしむ表情で語り始めた。

 

CDジャケットを握りしめながら照れ臭そうにCDから流れる自分の声に耳を傾ける

 

自分の人生にスポットが当てられそれが自分の声と共に他者の耳にも届く。同様の経験をしてきた方は多くはないだろう。ましては震災により取り上げられてきたのは悲しい記憶、思い出したくない感情が多かったのではないか。照れながら自分自身が話している昔ばなしを聞いている顔を見ると、震災の記憶を少し遠くに置いて¨被災者¨ ¨避難者¨の自分では無くなる瞬間なのかもしれないと強く感じた。

Tさんは2019年夏には団地を離れ息子さんと共に暮らす予定であったが、「誰も知らない所に行っても面白くない。ここなら知ってる人がたくさんいる」と、引っ越し直前に一人この団地に残る事を決意したという。現在Tさんが住まう団地では元いた町へ戻る方、新しく家を建てた等の理由で退去者が後をたたない。

今回ラジオCDを住民の方へお配りしている最中Tさんが出演している事を伝えると「〇号棟のTさん! 最近見てないけどお元気かしら」「この方美空ひばり好きなのね。私も好きなの。」「Tさんは高齢だからたまに声かけないとね」など、Tさんを心配する声や新たにTさんの存在を知ったという声を多く頂いた。

このラジオCDを聞いてTさんという存在を知り、見守る目や繋がりが広がって頂ければ本望だ。それはTさんに限らず今まで出演頂いた方やこれから出演頂けるだろう方々も含めて。

 

CDを団地住民へ配布している最中、Tさんのご近所さんお二人に遭遇。Tさんが団地に残る事を喜んでいた

 

震災より8年以上がたった今復興公営住宅は高齢化が進み退去者が後をたたず、築かれたコミュニティが大きく変化をしている最中だ。そのような中なぜこのような活動が必要なのか。コラムを通して少しでもお伝えできればと思う。

コラム「ラジオ下神白」第2回目は昨年4月からメンバー入りした新人鈴木詩織(しおちゃん)がお送りしました。

 

ラジオ下神白
ディレクター:アサダワタル
プロジェクトマネージャー:榊裕美(りんご)
プロジェクトコーディネーター:鈴木詩織
アーカイブ編集:川村庸子
アーカイブ映像:小森はるか
デザイナー:高木市之助

プロジェクトHP:https://radio-shimokajiro.jimdosite.com/

 


公開日:2020年01月13日

県営下神白団地「ラジオ下神白」

「ラジオ下神白 あのときあのまちの音楽からいまここへ」とは、 小名浜にある県営下神白団地を舞台に展開される、音楽と対話を手掛かりにしたコミュニティプロジェクト。住民が住んでいたかつてのまちの記憶を馴染み深い音楽とともに収録するラジオ番組を制作し、それらをラジオCDとして住民限定に配布・リリース。この行為を軸に、立場の異なる住民間、ふるさととの交通を試みている。

所在地
いわき市小名浜下神白字舘ノ腰
活動日
不定期
お問合わせ
https://radio-shimokajiro.jimdosite.com/