勿来と双葉、垣根をこえるつどいの場

勿来酒井団地集会所


 

いわき市勿来町にある、勿来酒井団地集会所。7月11日、集会所には地域の人たちの笑い声が響いていました。テーブルの上にあるのは、ボードゲームと配食サービスの会社が作るお惣菜。盛大な笑い声。にこやかな顔。和やかな談笑に、自然なふれあい。いやあ、ものすごくいい雰囲気の集会所だなあと思わずにいられない光景でした。

この日、ここに集まって来たのは、勿来酒井団地の皆さんと、地元の酒井地区の皆さんです。団地の皆さんは、福島第一原発事故の影響でいわきに避難して来た人たち。同じ「酒井地区の住民」でも、団地と住宅地では、ルーツも置かれている状況も異なります。

それでも、集会所に集えば皆が仲間。考えてみれば、地元の皆さんは、避難して来た双葉郡の皆さんを“地域で”受け入れ、そして今回は、団地の皆さんが、地域の人たちを“集会所で”受け入れている。そんな風にお互いが胸を開いて受け入れ合い、その地域に暮らす人間として明るく交流する。その光景は、まさに「つどい」でした。

 

ルーツの垣根を超えて楽しむ。そこに「地域」が新しく生まれる

 

終始和やかな雰囲気のなかで繰り広げられたテーブルゲーム

 

皆さん歓声をあげながら楽しんでいらっしゃいました

 

いわき市で配食サービスを手がける「花のや」さんがこの日の惣菜をお振る舞い

 

ちょっとしたお惣菜やお茶菓子がある。これが大事

 

しかし、この光景に至るまでには、多くの困難がありました。

勿来の中心市街地から少し離れたこの酒井地区に団地が完成したのは去年のこと。団地のなかには新しい集会所も完成しましたが、団地の完成から1年近く自治会が結成されず、地域の交流拠点として期待された集会所は、活躍の機会を与えられませんでした。

それも仕方ないことかもしれません。団地の住民の皆さんは、そもそもここに来る前は南台の仮設住宅や様々な場所におられ、その前は、あの事故を経験しています。その後何年も全く異なる暮らしを余儀なくされ、新しい住居を手にしたとしても、暮らしが安定するまでは、コミュニティのことを考える余裕もなかったことでしょう。

一方、団地の住民を受け入れる酒井地区の住民も、どんな人たちが移住して来たのかがわからない。どんな風に交流を持ったらいいのかわからない。勿来と双葉では、生活スタイルも異なる。そうして疑心暗鬼が生まれてしまう。震災後、多くの被災住民を受け入れたいわき市民ならば、同じような経験をした人が多いはずです。

 

新しく完成した集会所。デザインも良く使い勝手が良さそうです

 

団地の集会所は、地区全体にとってもメリットがあるとかたる、酒井地区の区長さん

 

しかし、団地のリーダーたちは「自治と交流」の意味を理解していました。1年もすると団地の人たちが立ち上がり、外部の支援を受けながら自治会を結成。積極的に草刈りや声かけなどを行ってきました。少しずつ、団地の住民が集会所に集まり、集会所が団地の交流拠点として注目されるようになったのです。

すると、少しずつ、地元の酒井地区の住民との交流が生まれ、新しい集会所を、地域全体の集会所として使おうという機運が高まり、今回、初めて団地住民と地域住民の交流会が企画されたというわけです。

地元酒井地区の区長さんに話を伺うと、もともと酒井地区にあった集会所は、少し狭く、体操するのに両手を広げたりすると、多くの人たちは入れなくなってしまう。けれどこうして団地の集会所を使わせてもらえれば、地元の人たちも集まれるし、団地の人たちとの交流も図れる。今後はどんどんこういう取り組みを広げたい、という趣旨の話をしてくれました。

地域のなかに線を引くことなく、自分たちのできることは自分たちで行う。そして交流し合う。そこに新しいコミュニティが生まれ、「お互い様」の精神が生まれる。震災と原発事故によって立ち現れた「コミュニティの断絶」という課題を、こうして現場の人たちが乗り越えようという姿。これぞ「いごき」の精神に他なりません。

いごく編集部、また集会所にお邪魔したいと思います!!

 


公開日:2019年08月06日

勿来酒井団地集会所

勿来町の復興公営住宅「勿来酒井団地」に新しく作られた集会所。あくまで団地の住民たちの集会所ではあるが、地元の酒井地区の住民との交流拠点としての活用も視野に、現在様々な取り組みが行われている。

所在地
いわき市勿来町酒井青柳
活動日
不定期