泉、小名浜、湯本の3つの地域の境目に位置する「常磐下船尾」地区。かつて常磐炭鉱の労働者が多く移り住んだという、山々に囲まれた閑静な住宅街です。
この常磐下船尾地区で月に一回行われているのが、「船尾いきいきサポーターの会」による地域の見守り活動。地域住民自らが「いきいきサポーター」として地区内の住宅を一軒一軒歩いて回り、住民の心身の健康状態を見守るという活動です。
とまぁ、こんなふうに書いてしまうとなんだか真面目で堅苦しい雰囲気になってしまいますが、実際に住民の方と一緒に地区内を歩いてみると、そこには文字どおり「垣根を越えた」住民どうしの交流がありました。
秋晴れが広がる11月某日の朝方。やってきたのは常磐下船尾集会所です。入り口を覗いてみると、会の開始時間に合わせて続々と参加者が集まっている模様。ワイワイガヤガヤ、なにやら授業が始まる前の教室のような雰囲気です。
そんな会場の最前列、どっしりと構えた男性の方がこちら側を向いて座っています。何を隠そう、この方こそが船尾いきいきサポーターの会を束ねる会長、矢沢行恵さん。奥会津は只見出身という矢沢さんの挨拶から定例会はスタートしました。
本日の定例会のメニューは前半が毎回恒例の地区内の見守り活動、そして後半はいわき障がい者相談支援センターの職員による精神障害についての講義なんだそう。なんだかとっても真面目なことが始まりそうな予感…! 自然と背筋が伸びます。
開会の挨拶が終わると、さっそく集会所の外に出て見守り活動スタートです。3人ごとの班に分かれてそれぞれが担当するお宅を歩いて回ります。私もお母さん3人のチームに混ざり、見守り活動に同行させていただきました。
先ほども書きましたが、「いきいきサポーター」のみなさんはこの常磐下船尾地区の住民であり、仲のいいお友達どうしでもあります。「見守り活動」なんて言われると大それた取り組みのようにも聞こえますが、どうやらみなさん、お友達どうしでお散歩に出かけるような雰囲気。「お兄ちゃんどごがらきたのー?」「取材なんて聞いでねえがら化粧すんの忘れちまった〜」元気な笑い声が下船尾の集落に響き渡ります。
そんな感じでおしゃべりをしながら歩みを進めていき、気づいた頃には民家のお庭に到着。「こんにちは〜」「〇〇さんいる〜?」インターホンを押すより先に母ちゃんたちの張りのいい挨拶が飛び交います。驚いたのは、どの家に行ってもサポーターのみなさんが「この家には××さんの家で、ご家族は何人、息子さんは今どこどこにいてこの家は何人暮らし」と即答できること。住民どうしのセーフティーネットが強固に構築されていることが窺えます。
歩いている途中でも、外に出ている人を見つけたらすかさず声をかけます。
まさに「垣根を越えた」コミュニケーション。
塀からひょっこり顔を出して「最近どうー?」「元気だったー?」と呼び掛けます。
あるお宅では、お庭の窓からこんにちは。
またあるお宅では、縁側からこんにちは。
いきいきサポーターの会では、こうして地域住民の方と「超近距離」のコミュニケーションを継続してやってきたのだそう。とある一人暮らしの住民の方は、以前精神障害を発症し、しばらく体調を崩していたそうですが、この日伺ってみると顔色もよく、お元気そうな様子。継続的に見守り活動をすることによって、些細な変化にも気づくことができます。
見守り活動を終えると、集会所に帰って活動報告を行います。実はこのいきいきサポーターの会には社会福祉協議会のスタッフも毎回同席。サポーターのみなさんが取得した地域住民の情報を、社会福祉協議会が把握することで、公的な支援がスムーズに行える仕組みになっています。まさに官民協働の先進的な取り組み。
お散歩のような雰囲気なんて書いてしまいましたが、実はいきいきサポーターの会は地域福祉においてとっても重要な役割を担っていたのです。
さて、見守り活動の報告が終わると、後半の精神障害について学ぶ講座に入ります。
先ほど精神障害から回復された方のお宅を尋ねてきましたが、いま、そうした事例が増加しているんだそう。サポート活動をより充実させるために、社会福祉協議会の生活支援コーディネーターと相談の上、今回講座を設ける事になったんだとか。皆さん、とっても勉強熱心で感服いたします…!
講義ではまず、障害には身体障害、知的障害、精神障害の3つがあり、そのうち精神障害には統合失調症、躁鬱病、アルコール依存症など、さまざまな様態があるとの説明を受けました。
実はこうした精神障害を抱える方は、100人に1人くらいの割合で存在し、その数は高血圧の患者さんより多いとも言われるのだとか。なかなか表面化しないだけに自分からは遠いもののように思えますが、実はとっても身近にある存在なんです。
加えて、日本では精神科病棟での入院日数が海外に比べて極めて長くなっているんだそう。その背景には、まだまだ精神障害への理解が行き渡らず、社会で受け入れを行う体制が整っていない状況があるようです。
前半の見守り活動とは打って変わって(?) 講義を受けるサポーターのみなさんの顔つきは真剣そのもの。熱意が伝わってきます。
精神障害をめぐる環境は、関連法の改正などもあり、この数十年で大きく変化を遂げています。大切なことは、障害についての理解を深め、地域で当事者を受け入れる土壌を作ること。障害があってものびのびと暮らせる地域社会をみんなで作っていければ、もはや障害は障害でなくなるのです。
講義が終わると矢沢会長の締めの挨拶で今日のサポーターの会は終了。皆さん、お疲れ様でした。
船尾いきいきサポーターの会のような見守り活動をしている住民組織は他の地区にもあるそうですが、下船尾地区は長年継続的にこうした取り組みを行なってきた結果、現在のような活発な活動ができているとのことでした。
いやはや、なんとも学ぶことの多い取材でした。矢沢会長はじめサポーターの皆さん、下船尾地区の皆さん、ありがとうございました!
住民支え合い活動のホームページはこちらから!http://www.city.iwaki.lg.jp/www/contents/1466665139960/index.html
公開日:2020年12月16日
常磐下船尾集会所
かつて常磐炭鉱の早期退職者が多く移り住んだという常磐下船尾地区のコミュニティの場。今回のいきいきサポーターの会の他にも毎月一回つどいの場が開かれ、住民どうしの憩いの場となっている。
- 所在地
- いわき市常磐下船尾町村山