ドビュッシーと光

五味沢地区見守り隊(五味沢げんき集会)隊長 根本久一さん


 

 

 

このコロナ禍下ならではの、集まれても良し、集まれなくても良しのプロジェクトが前のめりに進行していると聞き、とりもあえずその川前町五味沢(ごみざわ)地区へと急行しました。夏井川沿いに県道41号線小野四倉線を走ることしばし。着いたところは農作業場のような、いや集会場のような、土間の広いなんだか不思議な雰囲気の建物。集会に参加しつつ、さっそく隊長である根本久一(ねもと ひさかず)さんにお話を伺いました。

(文・写真/江尻浩二郎)

 

 

 

 

 

この会の立ち上げは平成27年1月20日です。「いつまでも五味沢で元気に過す」「地区住民が元気でいられるように見守る」っていうのを目的にしてます。

 

わたしは好間工業団地の音響機器メーカーに勤めてて、定年退職したあと1年間、川前の支所の用務員をやってたんですね。そのとき同級生が社会福祉のところにいて、熊倉神社の宮司なんですけども、今日はどこどこのサロンなんだぁ、なんて毎日嬉しそうに出て行くんですよ。それは一体どんなことやってんのって興味をもって、それが会を作るきっかけですね。

 

 

 

 

 

 

 

最初は「見守り隊」として立ち上げました。市内では20番目。川前地区では初めての「見守り」活動です。(★)

 

人を集めるのに、ただ紙っぺらを回しただけではイメージがつかめないだろうということで、包括支援(地域包括支援センター)の方とチラシをもって2回ほど個別訪問しました。苦労話と言えばそれが苦労話ですかね。当初は女性11名、男性3名の計14名でした。

 

現在は「つどいの場」として引き継がれてます。最初は月1回程度の集まりだったんですけど、その後は年間20回ほどにして、今年中に累計100回になります。現在は女性10名、男性2名の計12名。平均年齢73.8歳、最高齢は88歳で一番若い人が60歳。会費は一回100円。御菓子代ですね。

 

昔はリハビリ体操が主だったんですが、今はゲームとかもやってますね。あと年に2回、お花見と年末には豚汁を作って食事会なんかもやってます。自分の畑でとれた白菜だとか大根だとか持ち寄ってね。みんな楽しみにしてるんですが、今年(の年末)はちょっと難しいですかね。ほかにも防犯講話とか、今年だと歯科衛生士の方のお話だとかもやって、結構評判よかったです。

 

 

 

 

 

今日やってるのはこれ。千羽鶴のプロジェクトです。包括支援の方からこんなことやってみないかと声を掛けられまして。

 

 

 

 

これだったら集まれないときは自宅でひとりでもできるし、集まれればみんなで繋げたりと、コロナ禍の状況でも無理なく参加できるのがいいですね。はじめたら予定よりもすごく早いペースで進んじゃって、結構みんな楽しんでるみたいです。これは来月、(川前)支所で医療従事者の方に贈呈式があります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここの集会所はね、昔はいんげんの集荷場だったんですよね。だからこういう道具なんかもおいてあるんですけど、できたのはいつだったかな。最初からこういう作りになってたんですよ。

 

 

 

 

 

 

集まるのはいいんですけど、五味沢も意外と広いから足(交通手段)がない人は来られないんですね。だから送り迎えもわたしの大事な仕事です。

 

 

 

 

 

 

 

まあでも、みんなの元気な顔が見れるのが一番ですね。特別なことは何もないです。それだけですよ。

 

わたしはずっと勤めていたので、消防とかはやってましたけど、あまり地域に深く関わってなかったんですね。いまこうして地域のためになにかできているということが本当に嬉しいんです。最高ですよ。

 

 

 

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作業中、久一さんがすっと立ち上がって、自分のスマホをBluetoothスピーカーにつないだかと思うと、おもむろに軽やかなクラシックのピアノ曲を流し始めました。ドビュッシーのアラベスク1番。 いつのまにか無言で懸命に作業していた集会所の空気がみんなの雰囲気がふわっとなごみます。その一連の流れをわたしは魔法でもみるように眺めていました。

 

 

 

 

あとで久一さんに聞いてみると、さすが音響機器メーカーに勤めていただけあって、こうしたものには全く抵抗がないとのこと。会を束ねる隊長が今どきの技術にめっぽう明るいとはなんと心強いことでしょうか。しかもあのタイミングでさらっとチョイスしたドビュッシーが確実に場の流れを良い方向に変えていました。これはいわば演出です。すばらしい。

 

実は来年3月、この地域にも待望の光回線が入ることになっています。「インターネットが来ると言われてもみんな何をどうしていいか分からないですよね」と苦笑いされていましたが、まずはこの久一さんが目一杯使い倒してくれるに違いありません。可能性は無限です。ドビュッシーと光。五味沢げんき集会の今後に目がはなせなくなってしまった今回の取材でした。

(終)

 

 

 

★ 見守り隊として発足し、当初からサロン提供型の見守りを行ってきた。現在も見守り活動の一環としてサロン(現在はつどいの場)を運営している。

 

 

 

 

 


公開日:2021年11月27日

根本久一(ねもと・ひさかず)

五味沢地区見守り隊(五味沢げんき集会)隊長。市内の某有名音響機器メーカーに勤めていたこともあり、軽やかにIT機器を使いこなす。「地域のためになにかできていることが最高」というどこまでも謙虚な頼れるリーダー。