高校生が演じる祖母、そして認知症

演劇で学ぼう認知症の対応


321日、いわき市文化センター大ホールで開催される「お話と演劇で認知症講演会」。その名の通り、講演と演劇で認知症を学ぼうじゃないかというイベントです。講演を行うのは、新田目病院の院長である菅野智行先生、そして演劇は、いわき総合高校演劇部。福島県を代表する演劇強豪校のエースたちが「認知症」をいかに演じてみせるのか、期待が高まります!

ってことで、いごく編集部、昨日3月14日(水)、いわき総合高校演劇部のお稽古の様子を見学にいってきました。一言で言うと、見学ですでに感動! だからこうしてブログを書いてるわけですが、高校生たちの演劇に対する真摯な態度、底抜けの明るさ、そして福祉への思い、とにかくすごかったです。

認知症のおばあちゃん(左)とお嫁さん(右)が繰り広げる認知症劇のワンシーン。

稽古が始まったのは午後3時半。劇に出るキャストは10人ほどですが、それ以外のメンバーも勢揃いし、大道具、小道具、衣装などのパートに分かれて準備が行われ、稽古が始まると、キャストの生徒がそれぞれのシーンを演じ、顧問の斎藤先生や周囲の生徒がさまざまな提案をしながら劇の完成度を上げていきます。

スーパーマーケットで、「一万円札」しか出さないおばあちゃん。店員はどう対応する?

部長の市村まどかさんが演出の担当。その都度、的確な指示が飛びます。

今回の劇には、認知症に起こりがちなシチュエーションを想定し、悪い対応/理想的な対応を演じて可視化することで、劇を見にきた人たちに認知症への対応を分かりやすく伝えよう、という狙いがあります。

例えば、「自分で財布をなくしたのに家族のせいにしてしまう」とか、「毎日のようにスーパーで卵を買ってきてしまう」とか、あるいは「すぐに保険証をなくして役場の人に迷惑をかけてしまう」といった、認知症に起こりがちないくつかのシチュエーションを想定しつつ、劇が演じられるというわけ。

そして、そのシーンの都度、今の声の掛け方でよかったのか、もっと効果的な声の掛け方や対応があったのではないか、ということを劇を通じて学んでいくという形です。もちろん、高校生による演出なので、思わず笑ってしまうような動きがあったりとオリジナルの要素も充分。堅苦しく学ぶわけではありません。

家族チーム。真ん中のおばあちゃんを演じる西村麻奈さんが「主演」という位置づけ。

認知症のおばあちゃんを演じるのは2年生の西村麻奈さん。亡くなったひいおばあちゃんに認知症のような症状があり、家族を困らせてしまったり、家族から怒られてしまうような場面を何度か目にしていたそうです。「認知症のおばあちゃんの役は難しいけど、役に対しての思い入れは強いです」と意気込みを語ってくれました。

部長の市村まどかさんは、将来は社会福祉の世界を目指す高校2年生。今回の劇にはキャストとしてではなく、演出の担当として参加します。その理由を聞くと「純粋に、客席から菅野先生の講演や劇を観たかったから」だそう。親御さんが福祉の仕事に就いており、以前から福祉の道を目指していたそうで、将来は言語聴覚士が目標とのこと。

つーかもう、ほんとみんなすげえな。こんな高校生いるんだな、私たちが高校生のときなんて「誰かの役に立ちたい」なんてこれっぽっちも思ってなかったな、などと複雑な思いを抱きながら、質の高い稽古を見させて頂きました。稽古なのに、なんかちょっと感動的なんです。

認知症というものに、そこまで切迫しているわけではない高校生たちと、私たちが持っている認知症に対するイメージの、その間にある「差」が大きいからでしょうか。ゆるやかに認知症を捉え、「愛すべき個性」のようなものとして受け止めてしまうような、そんな余白を演技から感じました。高校生が、現実のリアリティから離れた立場にいるからかもしれません。

スーパーマーケットのチーム。スーパーでお買い物をするおばあちゃんが巻き起こすトラブルを、彼らはどう解決していくのか。

市役所チーム。手続きがうまくいかないおばあちゃん。市の職員たちは、適切に対応できるのか。それにしてもすでに職員っぽいぞ君たち!

実はいわき総合高校、2年生になると、6つある「系列」から自分の興味のある分野を選び、それに関する授業を自分で選択して受けるというカリキュラムになっています。その6つのコースのなかに「生活福祉系列」というものがあり、それを選んだ生徒たちは、高校2年生という早い段階で福祉の基礎を学んで行くことになります。

もう一人、一年生の遠藤未悠さんに話を聞きました。遠藤さんも来年度から「生活福祉系列」に進みます。「これから少子高齢化がますます進んでいくと、高齢者を支えるのは私たちしかいません。福祉の仕事はやりがいを感じると聞いているので、福祉の仕事に就きたいと思いました。将来は作業療法士になるのが目標です」と遠藤さん。力強いコメントをもらいました。

もちろん、演劇部の全員が福祉を学んでいるわけではありませんが、認知症を巡る劇を演じることで彼ら自身も学んでいくわけです。例えば役づくり。おばあちゃんはどう歩くのか、どのくらい動きが制限されるのかといったところにとどまらず、息子や嫁はどういう態度を取るのか、市役所の職員はどう対応すべきかなどということを、すでに稽古を通じて学んでいるわけです。

福祉の現実を「演じる」ことが、生徒たちに大きな学びをもたらしていきます。それを「観る」ことにも同じパワーがきっとあるはず。

この日の練習は、夜6時過ぎまで続いた。

演劇とは、他の誰かの立場になること。それを演じることです。だから、弱い立場の人たちを演じると、弱い立場に置かれた人たちの苦労に思い馳せることができる。言い換えれば、演劇には「福祉的側面」があるということかもしれません。その人の立場で考える。その人になりきってしまう。そこで見えてくることが確実にあるはず。

そう考えると、福祉を学ぶ演劇部の学生が、助けを必要としている認知症のおばちゃんたちを演じること、それ自体に特別な意味があるように思えてきます。福祉と演劇の奇跡的な何か。今回の劇は何か特別なものが見られるかもしれないという強い予感のようなものを、稽古の見学で感じることができました。

どうぞ、3月21日(水)は、いわき市文化センター大ホールにお越し下さい。「お話と演劇認知症講演会」は午後2時から4時まで。いごく編集部では、もちろんこの「本番」も取材します。福祉を学ぶ高校生たちも、いつかレポートしたいですね。高校生の活躍、そしてフレッシュな演技、ぜひ会場でお楽しみ下さい。

まぶしいほどの情熱を演劇に傾けている部員のみんな。彼らの演じる「認知症」。一見の価値が必ずあります。


公開日:2018年02月05日

お話と演劇で認知症講演会

日時:2018年3月21日(水・祝) 14:00〜16:00 会場:いわき市文化センター大ホール 料金:無料 お問い合わせ:いわき市保健福祉部 地域包括ケア推進課(0246-22-7465) 主催:いわき市、福島県認知症疾患医療センター 後援:社会福祉法人いわき市社会福祉協議会、特定非営利活動法人地域福祉ネットワークいわき