自分らしさ みんなの居場所 「あすびんち」


 

 

すべての子ども・若者が安心して過ごせる居場所を

 

地域のつながりの希薄化、新型コロナウイルス感染症の流行などにより、近年は子ども同士が遊び、交流する場が激減しています。内閣府が公表した「子ども・若者の意識と生活に関する調査」によると若年層の引きこもりの人数は増加傾向にあり(2023年)、様々な悩みを持つ若者も多く、こども家庭庁は2023年12月に「子どもの居場所づくりに関する指針」を策定、全ての子ども・若者が安心して過ごせる多くの居場所を持ち、幸せに成長できる社会の構築を掲げているところです。

 

様々な悩みを持つ子ども・若者たちの「居場所」をつくる

 

ひきこもり、不登校、障がい等で悩みを持つ親や子、若者に対して、広く相談に応じ、基本的な生活習慣の習得、社会復帰、就労、社会的自立への援助に関する事業等を行っている「NPO法人 明日飛子ども自立の里」。

今回、市内の拠点となる場所であるいわき市平5町目にある事務所にお邪魔してきました。いわき駅から徒歩7分ほどの距離にあるこの建物は、水色の背景に黄色の文字がまぶしい、でもどこか落ち着く雰囲気の漂う看板が目印となっていました。

早速、お話を伺いました。対応してくれたのは優しい笑顔と眼鏡姿が印象的な相談役である清水さんと理事長の神永さん。事業内容は多岐に渡り、メモを取るペンが追い付かないほどたくさんのお話を聞かせていただきました。

 

全ての子どもに学びの機会を

 

まずは、いわき市から委託を受けている「子どもの学習環境整備事業」についてお話を伺いました。事業の対象は、生活保護世帯やいわき市生活・就労支援センターの支援を受けている世帯に属する中学1年生~3年生となっています。

生活保護を受給する家庭の事情は様々です。親の精神疾患やひとり親での就労の難しさなど多岐に渡ります。勉強したくともその環境が整っておらず、学習の機会を奪われている子どもも多くいます。そのような子どもたちを対象とした事業では、以下のような取り組みを行っているそうです。

週に1回2時間、先生が自宅を訪問。1対1で学習の支援を行います。勉強の悩みだけではなく、学校での悩み、家庭での悩み、保護者からの相談などに乗り、潜在的なニーズに対してアプローチし、家庭に対しての支援を行っているとのことです。利用料金は無料です。

私自身、生活保護のケースワーカーをしていた時に、中学3年生の受験生を担当したことがあります。その子は1年間この事業を利用し、見事志望校に合格しました、1年間の取り組みは、子どもの学力の向上だけではなく、親以外の大人との間に信頼関係を築き、些細なことでも相談ができる、その子にとっての「居場所」となっていたと思います。

 

「働きたい」を応援。きっと見つかるあなたの居場所

 

次にお話を伺ったのは「いわき地域若者サポートステーション」の運営。これは厚生労働省よりの委託事業です。対象者は15~49歳。ニートや働くことに対して不安を抱えている状態の人を対象とし、悩みを抱える若者の総合相談窓口の位置付けとなっています。

各種プログラムを通して、実際の就労、自立へ向けてのトレーニングを行うそうです。プログラムの内容は人によって異なりますが、就活に関する基礎講座を受講したり、ハローワークに職員が同行してくれたり、履歴書の書き方、面接の練習など幅広く対応してもらえるものとなっているようです。全てのプログラムは無料で受けられるそうですが、まずは気軽に電話・メールで問い合わせてほしいとのことです。それと併せて「キャリア相談」も行っています。これは名前の通り、キャリアコンサルタントによる就活や生活などの個別相談・保護者の相談に応じる事業です。

 

学校に「居場所を」

 

なんとなく教室にいたくない、教室に馴染めない、学校は好きだけど大人数の中にいると疲れちゃう、そんな高校生たちを対象にした居場所づくり事業である「個別支援教育サポート事業」。令和5年度より始まった福島県からの委託事業です。勿来高等学校、いわき翠の杜高等学校の空き教室を開放し、生徒たちの「居場所」となる場所を設置。誰でも利用していい場として機能しており、職員が必ず在中し、一緒にお話ししたり、ひとりでゆっくり過ごしたりできると言います。お弁当を教室で食べられない子どもたちが利用しているパターンもあると言います。

 

みんなの「居場所」

 

次に聞いたのは「いわき市みんなの居場所づくり事業」(以下居場所事業)。対象者は、市内在住であれば年齢も性別も問わない、いわき市からの委託事業となっています。この事業は様々なプログラムや面談を通して、交流しながらコミュニケーションスキルやビジネスマナーを学ぶ場として機能しています。

プログラムの内容は、弁護士さんや心理士さんのお話を聞いたり、平の町中を散歩したり、あすび・おむすび・えんむすび事業(後ほど紹介!)の活動を行ったりしているそうです。清水さんの話によると、「メンバーの『やりたい』という声を大事にして、なるべく実現させていくようにしている。」とのことです。メンバーからの発信を大事にし、実現させていくことで、メンバー自身が自分も「意見を言っていいんだ。」「思いを発信していいんだ。」と思うきっかけとなっているようにも思います。

 

あすび・おむすび・えんむすび

 

この事業は月2回キッチンカーでお弁当を届ける出張型地域食堂(こども食堂)を開催している事業です(1回につき100食を提供)。お弁当のお代は投げ銭式で、収益は地域食堂の開催に活用されています。場所は、中央台第二団地集会所と石名坂団地集会所の2か所です。対象は子どもだけではなく、地域に住む人なら誰でも利用が可能です。

学習支援事業を行う中で、食事を十分に摂ることができていない子どもたちがいることを知ったことと、ニートや引きこもりの若者が活躍できる中間的就労の機会を作りたいと考えていたことがつながり、始まった事業だそうです。実際に事業で振る舞うお弁当を作るのは、居場所事業の利用者である若者たち。明日飛スタッフの手を借りながら、若者たちが役割分担してお弁当を作成、地域住民に配ることまで行います。

普段、人前に出ることが苦手な若者が活躍する機会となりつつ、地域に住む子供たちを含めみんなの「居場所」を作ることにつながっている活動です。お弁当は販売も行っており、人気を集めています。資金を作るためとして、おむすび弁当の製造販売及びキッチンカーを使ったソフトクリームの販売などを「居場所事業」の一環として行っているそうです。利用する側も開催する側も、みんなの素敵な「居場所」となっている事業なんですね♪

 

実際に見に行ってみた!

 

なんと今回は夕方に開催されている、中央台第二団地集会所と石名坂団地集会所での地域食堂の様子を見学に行ってきました。団地に住む子どもからお年寄りまでたくさんの人が訪れ、顔馴染みの方同士の会話も弾み、何度か利用しているお子さんがお手伝いしていました。そこには、とても温かな空間が広がっていました。

 

 

あすびんちに通う若者と地域食堂に集まる子どもたち

 

きっかけとなったのは

 

そのほか、法人では就労訓練のための牧場経営を行い、養鶏労働体験などを若者が行う「牧場事業」や若者がフリースクールの寮で共同生活を送り、基本的生活習慣、一般常識などを身に付けるための「フリースクール事業」など多岐に渡る事業を行っていることが分かりました。

事業を始めたきっかけについて聞いてみました。元々、鮫川村で山村留学を始めたのが法人の始まりだったそうです。学校に馴染めない、不登校、発達面に課題を抱えている、など様々な子どもたちが自然の中で学べる、少人数の中での居場所づくりを行ったことが、いわきでの活動につながったと話します。最初は清水さんと清水さんが以前勤務していた養護学校(現在の名称は特別支援学校)の仲間と3家族で始めた活動だそうです。これからも子どもたち、若者たちの「自分のことを理解してほしい」という気持ちに寄り沿っていきたいとも話されていました。

 

子どもたち・若者たちの「帰ってくる場所」をつくる

 

フリースクールを通して、清水さんが直面したのは、フリースクールを利用していた若者のその後の居場所がないということ。例えば、児童養護施設などに入所している子どもたちは原則18歳になると退所し、就職、自立して自らの足で歩んでいくことがほとんどです。しかし、「フリースクールに参加した彼らにとってフリースクールでスキルアップを行えたとしても、その先は何もない。家に帰るにも、家庭に居場所がないという子がほとんど。」実際に利用する若者の多くが「家には帰りたくない。」「ずっとここにいたい。」という声を上げていたそうです。そこで清水さんは、みんなで働ける場所を作ろう、と牧場を作ることを発案。帰りたくないと声を上げていた若者たちと牧場を始めたことにより、彼らが巣立っていくようになったと言います。清水さん曰く、「それは彼らにとって帰ってくる場所ができたから。」

本来、私たちにとって最も安心できる、何かあったら帰れる場所であるべき家庭のような居場所を、清水さんは作り上げたのです。「人は帰れる場所があるから巣立つことができる。」と清水さんは話していました。

福祉専門職取材チーム(手前)と清水さん(奥右)と神永さん(左)

 

最後に

 

実際に、人々の「居場所」となるような場所づくりを行っている姿を見て、触れて「居場所」を作る上で何が求められるのか耳を傾ける良い機会となりました。清水さんや神永さんのような活動に日々取り組んでいる皆さんや、若者・子どもたちのように参加されている皆さんの声を、また聞かせていただけると幸いです。

 

 


公開日:2026年02月13日