いわきに「川前」がある豊かさ


 

いわき駅から電車代ちょうど500円でどこかに行くとする。皆さんは、どこに行くだろうか。

常磐線を南に向かって勿来駅(500円)? それとも北に向かって楢葉の木戸駅(500円)? 電車も多いから、そのどちらかという人が多いだろう。磐越東線に乗って川前駅(こちらも500円)に向かう人は少ないかもしれない。

しかし今回は川前である。というのも、川前駅前でイルミネーション駅前屋台が開催されているからだ。夏に行われた屋台の賑わいや繁盛具合は噂になって僕にも伝わってきていた。(いごくにもその時の模様がレポートされている

駅前に酒場がある。それは都会ならば当たり前のもの。でもここは川前。ディーゼル列車が1時間に1本あったらいい方で、コンビニすらない田舎なのだ。そんな田舎の駅前で飲めること自体が面白くて刺激的でしょ?

 

磐越東線の列車が発着するいわき駅6番線

 

夕方5時50分。仕事を終え、駅へと急ぐ。普段はあまり使わない、いわき駅6番線。川前駅に向かうディーゼル列車が暖気運転をしながら待っていた。発車まであと少し。初めて向かう川前に胸躍らせながら発車を待った。そして列車が少しずつ動き出し、赤井、小川郷と走り去る。暗闇を切り裂く列車に揺られながら30分。完全に夜の帳が降りる頃、川前駅に到着した。

 

夜の帳がおりた川前駅

 

汽車を降りると、ピカピカとしたイルミネーションが。やってる、やってる!

汽車を降りる人の中には、僕と同じように駅前屋台で一杯引っ掛けようと来た方もいた。なかなか知れ渡ってるじゃん、感心した。

暖簾をくぐると、もうすでに盛り上がっているテーブルが。「夏の頃はもっとすごかったんだけどねえ」と、夏の駅前屋台を知る人は言う。いやいや、それでも結構、人、入ってますけどね(笑)

とりあえず生1つ!

席に腰掛けて、周りを観察してみる。

やっぱり目につくのは、母ちゃんたちの元気さだ。少し手狭な厨房で、忙しそうに、でも楽しそうに動き回っている。そんな姿を見ているとなぜか元気になる。なんだろう、パワーが伝播してくるというか。

 

ひとつひとつ丁寧にコロッケを詰めていく

 

笑顔が素敵なお母ちゃん

 

美人ぞろいの受付

 

若者だって楽しそうだ

 

つまみは素朴だ。川前キジコロッケ、そば粉を使ったアメリカンドック、ポテトフライ、枝豆、唐揚げ。でも素朴だからこそ、素材のうまさが伝わってくる。コロッケなんて、ジャガイモがふわっふわでめちゃくちゃ美味しいのだ。

せっかくひとりで来たので、色んな人に話しかけてみる。この空間自体がゆるっとした雰囲気に包まれているので、自然と話がはずむ。なんというか、ここにいるみんなが親戚のような、「おう、久しぶり」というような感覚なのだ。

 

自然と会話が生まれる不思議な空間

 

老いも若きも、参加している人たちみんなが楽しい

 

川前の駅前酒場は、都会のギチギチした格安チェーン店のそれとは対極的な位置にある。ボタンを押さないと店員が来ないし、個室で他の人とも交わることもない。必要以上のコミュニケーションはいらないし、予想外の出会いもない。そんなチェーン店とまるで真逆だ。

僕も20代で若者の部類に入るから、確かに最低限のコミュニケーションのほうが楽だと感じるときもある。でもそれだけじゃあまりにもさみしいし、豊かじゃないよねって思う。ここはそういう意味で本当に豊かなのだ。みんなでいま、この時間、この雰囲気を楽しんでいる。お客さんも、働く川前の人も。

外を見ると、地元のおばあちゃんたちが、賑やかな雰囲気をただ楽しみにベンチに座っている。本当に何もするわけでもなく、賑やかな雰囲気を眺めている。最初見たときはとても不思議な光景に思ったけれど、小1時間飲んでいたら分かってきた。たぶん賑やかにやっているところを見ると元気がもらえるからなんだろうな。

 

楽しげな雰囲気におばあちゃんも引き寄せられる

 

イルミネーションの手前では新鮮な野菜販売も

 

それぞれのイルミネーションは地元の小中学生が秋をイメージして作ったものだ

 

2時間あまり、初めて川前に来たのにも関わらず、色んな人とたくさん喋って、飲んで、笑って。帰り道には屋台で仲良くなった人たちと一緒に帰ったりして。でも、いわき駅に戻ると、いつもの都会なのだ。非日常から、いつもの日常に戻ってきた。

 

楽しげな時間はあっという間に過ぎ去り帰路へつく

 

非日常から日常に戻る列車に乗り込む

 

いわき駅に戻ると、川前が少し愛おしくなった

 

あれはなんだったのだろうと夢心地になる。確かに川前で酒場があって、すごく楽しくて、なんか元気をもらっている。不思議な感覚だった。「地方創生」とかどうでもいいから、また元気な母ちゃんに会いに行きたいなあと思う。次は、大切な友人を連れて。川前の母ちゃんたち、無理せずに楽しくあの場を続けていってほしい。また会いに行きます!

次の駅前酒場は12月開催の予定だそうです。みなさんもぜひ。

文と写真:森 亮太(mogra)

 


公開日:2018年11月01日