思いと人が「いごき」続けていれば大丈夫

山形♡いわき交流記2025


 

 

2025年7月初旬、山形市社会福祉協議会さんが、山形市各地で地域福祉活動を牽引されている地区社協の会長の皆さんとともに、いわきに視察に来られました。依頼文の一部をそのまま抜粋しましょう。

「地域共生社会の実現に向け、住民が主体的に取り組む地域福祉活動や地域包括ケアシステムに関する先進事例を学び、各地区の地域福祉活動に活かすとともに、相互の親睦を図ることを目的に視察研修を実施いたします。」

つまりは、いわきの「いごき」を見に来つつ、互いに交流しつながろうというわけです。二日間にわたるこのツアーに、私たちいごく編集部も同行し、改めて「いわきのいごき」について、そして、山形といわきの出会いと交流の模様をレポートしたいと思います。

 

つながりと共生の究極の聖地「北二区集会所」

7月3日お昼、山形からやって来た一台のバスが停まったのは、いわき市好間町北好間。そうここは、igokuファンならご存じ、いごくの聖地「北二区集会所」。第一印象が肝心、先制パンチだと言わんばかりに、最も強烈なコンテンツをプランの最初に持って来ました。時間はちょうどお昼。胃袋もつかんでしまえと、到着早々に集会所でお昼を提供するところから「いごくツアー」スタートです。

まぁ、なんという美しさでしょう。 手作り感、地域色、おもてなしの愛の三拍子が絶妙なハーモニーを奏でているではないですか。

 

山形の皆さんも、長年それぞれの地域を引っ張ってこられたリーダーであり、人生経験も豊かな方々です。すぐさまお返しとばかりに、おみやげの贈呈です。写真をご覧ください。北二区代表、初対面の山形の役員の方に腕組みしているではないですか。到着30分で、すっかり仲良し、親睦完了です。

 

北二区お手製のお昼を食べたあとは、講話タイム!

まずは、「いわきの地域包括ケアigoku(いごく)」を立ち上げた、いわき市職員(当時)の猪狩僚さんから、いわきにおける地域包括ケアや地域共生社会の現状について具体な事例も交えながら話をしてもらいました。「つながり」こそが最も重要であり、人と人、地域と地域がつながるのに、「場」と「食」が大きな力を発揮するということが印象的でした。そして、今回のツアーは、まさに「場」と「食」の力が「つながり」を生んでいる現場を巡るものになっているんです。

ここ北二区集会所は単にパンチの強いおばちゃんがいて、ご飯を提供してくるという場所ではありません。かつては炭鉱で栄えたが、今は住民のほとんどが高齢者となっている。それでも、炭鉱時代の「一山一家」(炭鉱の山に関わるすべての人はひとつの家族、みんなで助け合おう)の精神が根付いているこのコミュニティは今なおステキなつながりを維持しています。

月に一度、片岸さんというリーダーを中心としたメンバーが「つどいの場」の開催に合わせて、集会所で昼ごはんを作る。つどいの場のレクリエーションが終わると、集まったみんなで、出来立てのご飯をともに食べ、お茶を飲み、おしゃべりに花を咲かせる。

高齢者がどんどん虚弱になっていき、健康と介護が必要な状態の中間にあるのを「フレイル」と言います。そのままだと、徐々に心身の機能が低下していき、要介護状態となっていきますが、暮らしぶりや取り組みによっては、健康な状態に戻れる可能性もある。この時に大事なことは、家から出て社会的なつながりを持つこと、体を動かすこと、栄養のある食事を取ることの3つです。

お分かりでしょうか。北二区集会所&片岸さんたちは、その3つを同時に提供しているんです。レクリエーションに温かい手作りのご飯のチカラで、家に引きこもりがちな地域の高齢者を集会所まで引っぱり出す。そして、レクリエーションで体を動かし、出来立ての栄養ある食事を食べてもらい、おしゃべりも盛り上げる。こうして、フレイルを防ぎ、一人ひとりの心と体を健康にしながら、コミュニティ全体も元気にしている。

そして、この奇跡のような取り組みに欠かせないのが、集会所という「場」と、手作りの「食」なんです。

北二区集会所についてはこちらも合わせてお読みください。
https://igoku.jp/tudou-6736/

 

見よ、リーダー片岸さんの凛とした横顔を

 

続いては、igoku編集部のメンバーであり、博覧強記の郷土史研究家でもある江尻浩二郎さんによる講話。この北二区集会所一帯も含め、いわき市における炭鉱の歴史について、網羅的に、でも具体なディテイルも交えつつ圧巻の熱量とボリュームでお話しくださいました。そして、これぞ江尻さんの真骨頂なんですが、テンプレのような「THE 炭鉱の歴史」ではなく、相手に合わせてアレンジを加えていきます。今回も、皆さんが山形からお越しということで、いわき(の炭鉱)と山形とのつながりの歴史を盛り込んでくださいました。

ずーっと、いわきに暮らしている身でも、「あぁ、そうだったんだぁ」と目から鱗がこぼれっぱなしでした。そして、「Mr.まち歩き」の異名も持つ江尻さんですから、座学な講話だけでは終わりません。北二区集会所をあとに、一行は「みろく沢炭鉱資料館」へ向かいました。

 

我らが誇る知の巨人、江尻浩二郎さん

 

大正15年(1926)4月1日、片寄平蔵が石炭の露頭を発見した運命の地、白水弥勒沢に、渡辺為雄さんという伝説の男がすべて手作りでつくった私設資料館、それが「みろく沢炭砿資料館」。年中無休、一切無料。レプリカはひとつもなく、すべてが本物。いわきの炭鉱の歴史がこれ以上詰まった場所は他にはない資料館で、実際に使われた道具などを目にしながら、江尻さんの炭鉱の歴史レクチャーは続きます。

なぜ、ここまでしたのか。

なぜなら、山形の皆さんがこの日泊まるのは、映画「フラガール」で有名な「スパリゾート・ハワイアンズ」だから。かつての名前は「常磐ハワイアンセンター」。炭鉱が終焉を迎えた際に、炭鉱の坑内から湧き出る豊富なお湯を活用し、ハワイの雰囲気を持たせたレジャー施設として誕生した場所です。なので、炭鉱とは切っても切り離せないハワイアンズにご宿泊するなら、炭鉱の歴史を知ってもらえると、より一層、満喫していただけるのではないかと考えたんです。かくして、濃いめの初日は終了です。

渡辺為雄さんと「みろく沢炭鉱資料館」については、こちらもあわせてお読みください。

https://igoku.jp/hito-4253/

 

 

「場」のチカラ・「集まる」チカラ | ふらっと大原

二日目は小名浜地区の大原公民館へ。ここで月に2回開催されている集いの場「ふらっと大原」にお邪魔させていただきました。この日に限らず、ふらっと大原はいつも多様なコンテンツと明るい元気が満ち溢れているステキな「つどいの場」です。今回は、まず「救急救命を学ぼう」と題して、小名浜消防署の職員さんによる心肺蘇生やAEDの使い方についての実践講座からスタート。ただ聞き、教わるだけでなく、実際にやってみる。心臓マッサージを続けることがいかにハードなことなのか、息を切らしながら体感します。

 

 

大原の皆さんは緊張と緩和を熟知しているのか、次のコンテンツは打って変わって、体を動かしながらの脳トレ体操。「グー」と言ったら「パー」を出すといったお決まりのアトラクションに、会場は割れんばかりの大盛り上がり。ここで、いわきと山形の距離がさらに一気に縮まりました。

 

グー!

つたないテキストより、一枚の写真。ご覧あれ、この笑顔

このレイアウトが「ふらっと大原」スタイル!

 

オホホ、ギャハハと大盛り上がりしたあとは、乾いた喉を潤すべくティータイムなんですが…。こ、これは…「ふらっと大原」の流儀/スタイルなんでしょうか?見たことのない机のレイアウトに、外側をぐるっと取り囲むように地元女性陣が座り、相対するように山形男性陣が座ってのティータイム。集団お見合い会場かと錯覚してしまうほどでした。

ですが、お茶を飲みながら話されている声に耳を傾けると、至って真剣で真面目な話をされています。「うちの地域も人は集まり、活気はある。でも今よりもっと人が集まり、つながりや活気ももっと増やしていきたい。 どうして、この集会所はこんなに盛り上がっているんですか?なにか秘訣があるなら教えてください」といった具合です。そうなんです、山形の皆さんは、自分たちの暮らす地域のつながりを、コミュニティを、今より少しでもよりよくしようとの思いから、いわきの「いごき」とそのヒントを直接体験しに来ているんです。ですから、質問や会話も自然と熱を帯びてきます。山形の皆さんのそんな想いと行動に改めて頭が下がりますし、その想いに対し、あえて普段通りの盛り上がりで受け入れてくださる、北二区やふらっと大原の皆さんの心意気にも、「流石だなぁ」と先輩たちへのレスペクトが深まりました。

 

 

「食」のチカラ | いつだれkitchen

大原公民館をあとにした私たち、後ろ髪をひかれる思いとは裏腹に、おなかはグーグー鳴り出していました。今回の一泊二日のツアー、最後の訪問先は「みんなのお勝手 いつだれkitchen」です。

「いつだれkitchen」は2019年4月にオープンしたコミュニティ食堂。食材の多くは人や企業からご提供された「いただきもの」で、お代はいくらでもOKの「投げ銭」スタイル。通常営業は毎週木曜の昼のみ、水曜はオレンジカフェとして開かれています。私たちigokuでもフリーペーパー「紙のいごく vol.8」号で特集を組ませてもらっています。

 

 

いつだれkithen については、こちらもあわせてどうぞ

https://itsudare-kitchen.studio.site/
https://note.com/itsudare_kitchen

 

この日は金曜日ですから、いつだれの営業日ではなく、山形の皆さんへ貸切&スペシャルメニューでおもてなしです。まずは、早速、「いただきまーす!」

 

 

 

お昼を食べながら、いつだれの代表である中崎さんが、いつだれkitchenをはじめるに至った経緯や思い、いつだれで大切にしていること、これからの共生社会に向けたヒントなどを笑顔たっぷりに話してくださいました。

「うちの地域も声をかけたら、米や野菜は集まると思う。やってみようかな」と山形の方から声があがると、

「いきなり大々的にやらなくてもいいと思いますよ。何人かが集まるぐらいの小さなアクションからでも、まずは試しにやってみる、重く考えずに気軽にやってみるのがいいと思います」と中崎さん。

こんなやり取りから、山形の皆さんから感想や質問が次々飛び出し、お腹も心も満たされるひとときとなりました。

 

いつだれkitchen代表:中崎さん

 

 

「いごき」続ける思いと人

いかがだったでしょうか。

これが2025年の夏に生まれた、山形といわきの小さな出会いとつながりの物語です。自分たちの地域を、暮らしを今より少しでもよくしたいという思いを根っこに持ち、何か参考になるヒントはないかと、山形からいわきまでお越しくださった皆さん。そして、それに呼応するかのように、いわきで誰かのため、地域のために「いごき」続けている皆さんが、笑顔で胸をひらき、受け入れ、おもてなしをする。数にすれば、小さな出会いとつながりかもしれませんが、本当に素敵な出会いとつながりだとも感じました。

人口は減り、少子高齢化はますます進みます。かつてあった賑わいは減り、一方、課題は増えていくかもしれません。それでも諦めることなく、自分たちの暮らしやコミュニティを少しでもよりよくしていきたいと思っている人がいるということ。そして、そんな人たちが、地域を、県を超えて、出会いつながるということ。今回の山形といわきの皆さんを見て、元気とやる気が湧いてきました。これからも、ともに笑顔で「いごいて」いきましょー。山形の皆さま、そして、いわきで関わってくれた全ての皆さま、本当にありがとうございました。

 

 

 

 

【山形市地区社会福祉協議会会長連絡協議会 視察研修 概要】

・目的:地域共生社会の実現に向け、住民が主体的に取り組む地域福祉活動や地域包括ケア
システムに関する先進事例を学ぶ。

・日程:令和7年7月3日(木)~4日(金)

・訪問先:好間町「北二区集会所」
 みろく沢炭鉱資料館
 小名浜「大原集会所(ふらっと大原)」
 みんなのお勝手「いつだれkitchen」

・参加者:山形市地区社会福祉協議会 会長13名、市社協職員4名
・Special Thanks to 北二区集会所の皆さん、みろく沢炭鉱資料館、ふらっと大原の皆さん、いつだれkitchen

 

【関連リンク(再掲)】
▷北二区集会所    https://igoku.jp/tudou-6736/

▷みろく沢炭鉱資料館 https://igoku.jp/hito-4253/

▷いつだれkitchen     https://itsudare-kitchen.studio.site/ 
             https://note.com/itsudare_kitchen

 

 

 


公開日:2025年11月05日